Resurfacing process of small asteroids:
小惑星の表面更新
小惑星リュウグウ JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研 |
小惑星イトカワ ISAS, JAXA
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小惑星エロス NASA, JPL |
小惑星エロス NASA, JPL
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近年JAXAの「はやぶさ2」による小惑星リュウグウの探査とNASAのOSIRIS-RExによる小惑星ベヌーの探査が行われ、
その前には小惑星エロスや小惑星イトカワの探査も行われており、小惑星探査が注目されています。では、どうして
小惑星の探査を行うのでしょうか。
小惑星は太陽系初期の情報を保持していると考えられています。初期の太陽系では、ガス円盤から微惑星が形成され、
微惑星同士の衝突によりいくつかの惑星が形成されたと考えられています。こうして形成された惑星は、その進化過程に
おいて太陽系初期の情報をそのまま保持できません。一方、小惑星は、微惑星同士の衝突によって惑星まで成長できなかった
残骸だと考えられており、惑星と比べて太陽系初期の情報を比較的保持していると考えられています。そのため、小惑星を
探査することによって太陽系初期の情報を得ることができるのです。
現在までに多くの小惑星に対して分光観測が行われており、各小惑星の反射スペクトルが得られています。反射スペクトルは
小惑星の物質組成を表しているため、反射スペクトルを正確に解釈できれば小惑星の表面の物質を理解することができます。
しかし、反射スペクトルの解釈は簡単ではありません。
宇宙風化再現実験におけるオリビン試料のスペクトルの変化を表したグラフ。縦軸は(a)が反射率、
(b)が550nmで規格化した反射率。実線が元のスペクトルで、各点線は照射したレーザーのエネルギーの
違いを表す。(a)を見ると、レーザーを照射されると反射率が低く(暗く)なっている。(b)を見ると、
レーザーを照射されると右肩上がりに(赤く)なっている。[1]
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小惑星のような大気を持たない天体の表面は、太陽風や宇宙線に曝されることによって変成を受け、反射スペクトルが
変わってしまいます。これを「宇宙風化」と呼びます。近年の宇宙風化再現実験によると、宇宙風化によって反射スペクトルは
「暗く」そして「赤く(右肩上がりに)」なることがわかっています。これは、宇宙風化によって表層にナノサイズの鉄の粒子が
形成されるためです[1]。また、宇宙風化の進行速度も見積もられており、10万年程度で宇宙風化は飽和するという報告が
あります[2]。しかし、実際の小惑星の観測によると、小惑星の年齢が10万年を超えているにも関わらず、宇宙風化は
飽和していないように見えます。つまり、小惑星の観測は宇宙風化の進行が遅いことを示唆しているのです[3]。では、
なぜこのような矛盾が生じているのでしょうか。
この矛盾を説明する仮説として、「表面更新」が提案されています。表面更新によって宇宙風化が緩和され、あたかも
宇宙風化の進行が遅くなっているように見えている、ということです。この表面更新については様々なプロセスが提案されています。
例えば、小惑星への微小天体の衝突(クレーター形成)です。クレーターが形成されると、クレーター部分は掘削されるため、
宇宙風化を受けていない新しい表面が露出します。また、クレーター形成の際には放出物がクレーターの周囲に広がり、宇宙風化を
受けた物質が放出物によって覆われてしまいます。他には、微小天体の衝突によって生じる地震によって表面が更新されるプロセスも
提案されています。小惑星のような小さい天体の場合は、微小天体の衝突によって小惑星全体が揺さぶられる可能性があります。
この地震によって小惑星表面の物質が動き、表面が更新され得るのです。エロスやイトカワについては、この地震による表面更新
モデルによるクレーター分布の再現がされており、地震によって表面が更新された可能性が示唆されています[4,5]。
小惑星の反射スペクトルを解釈するには、反射スペクトルを変化させる「宇宙風化」と、その変化を弱める「表面更新」の
両方を理解する必要があります。宇宙風化については、地上での再現実験や月・イトカワのサンプルから理解が進んでいます。
一方、表面更新については様々なプロセスが提案されているものの、実際に小惑星上で支配的な表面更新プロセスを同定することは
難しいです。しかし、近年の小惑星探査により小惑星表面の詳細な画像が得られ、表面物質が移動していると考えられる地形が
見つかっています[6,7]。この地形的な証拠から表面更新プロセスを同定し小惑星の地質進化を明らかにすることで、反射スペクトルや
持ち帰られたサンプルの詳細な解釈が可能になることが期待されます。
文責: 高木
[1] S.Sasaki et al., Nature, vol.410, no.6828, pp.555-557, 2001
[2] D.Shestopalov et al., Icarus, vol.225, pp.781-793, 2013
[3] M.Lazzarin et al., A&A, vol.498, pp.307-311, 2009
[4] J.Richardson et al., Icarus, vol.179, pp.325-349, 2005
[5] P.Michel et al., Icarus, vol.200, pp.503-513, 2009
[6] H.Miyamoto et al., Science, vol.316, pp.1011-1014, 2007
[7] S.Sugita et al., Science, 10.1126/science.aaw0422, 2019
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