Title
深成岩体におけるクリプトパーサイトの不均質性
Abstract
多くの花崗岩やアルカリ岩に含まれるアルカリ長石には,パーサイト組織と呼ばれる特徴的な組織がみられる.パーサイト組織は,カリ長石中にラメラ状のナトリウム長石が含まれるものをいう.ラメラの大きさはさまざまで,肉眼で確認できるものから、顕微鏡サイズのもの,または電子顕微鏡サイズまである.このうち,肉眼で観察できるほど粗大化したものは,パッチパーサイト(patchperhite)と呼ばれ,その成因はしばしば岩体冷却ステージ末期の熱水変質(deuteric coarsening)と関連付けられる(例えばParsons and Lee 2009).
一方,電子顕微鏡で観察されるサブミクロンオーダーのラメラは,クリプトパーサイト(cryptoperthite)と呼ばれる.形成のメカニズムにかかわらず,ラメラの一次的な粗大化(primary coarsening)は拡散によるため,温度と時間に依存すると考えられる.そのため,岩体の冷却速度を見積もるために,その粗大化カイネティクスを明らかにする試みがなされてきた(Yund and Chapple 1984など).特に,Yund (1974)やYund and Davidson(1978)では,クリプトパーサイトの再現実験が行われており,火山岩などの比較的急速な冷却を示す岩石の粗大化カイネティクスについてはよく理解されている.
しかし,深成岩などの徐冷された岩石中での粗大化カイネティクスについての理解は乏しい.その要因として,徐冷に伴う両相の結晶系の変化,冷却ステージ後期に被る熱水変質が障害となっていると考えられる.特に後者は,クリプトパーサイトの組織を乱すため(secondary coarsening),温度低下によって生じる一次的な粗大化と区別されるべきである.つまり、クリプトパーサイトの粗大化カイネティクスを明らかにするためには,二次的な変質を受けていない,よりフレッシュな組織を扱わなければならない.そこで,本研究では,岩手県北部に分布する一戸岩体のクリプトパーサイトをSEM観察することによって,一次的な粗大化の実像を明らかにする.また、クリプトパーサイトの地質速度計としての有用性についても議論する
Speaker 1: Yoshitaka Honma - UTokyo
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: May 12th 2015、10:30-11:15
Title
コンドライト隕石へのラマン分光炭質物温度計の適用
Abstract
始原的な隕石には炭素が不溶性有機物として多く含まれており、隕石の母天体 が経験した変成作用を読み解く手がかりの一つとして用いられている。炭質物は熱変性を受けると黒鉛化が起こるが、この反応が不可逆であるため、炭質物の構造を読み解くことで温度計として利用しようとする研究がなされている。炭質物のラマンスペクトルには特徴的な2本のバンドが見られ(D-band,G-band)、このバンドの強度比や半値幅を用い、最高変性温度を求めることが可能であることが地球上の変成岩やコンドライト隕石についてわかっている。
ごく最近になって地球上の変成岩中の炭質物の解析手法の改良が行われ、最大5本のバンドを用いて広い温度領域で温度計が適用可能となった(Kouketsu et al., 2014)。一方で隕石中の炭質物のラマンスペクトルの詳細な解析は行われておらず、低変成のコンドライト隕石については未だ成果が出ていない。そこで当研究では地球上の変成岩におけるラマン分光炭質物温度計の発展を参考に、炭質物のラマンスペクトルを最大4つのピークを用いた詳細な解析を行うことで、炭質物温度計の適用可能な範囲を低変成側に拡張することを試みた。
Speaker: Atsushi Takenouchi - UTokyo
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: June 9th 2015、10:30-12:00
Title
隕石における衝撃組織と高圧鉱物、及び衝撃の推定
Abstract
天体衝突現象は太陽系形成史に於いて重要な役割を果たしてきた基本的な現象の1つであり、多くの隕石にその情報が記録されています。それらの衝撃の痕跡は過去から現在までの天体の形成・進化史を読み解く上で隕石の母天体や挙動に関する重要な情報源ですが、衝突現象ではとても短いスケールで温度圧力が大きく変化するために全てを正確に読み解くのは難しく、完全な理解には至っていません。しかしこれまでに多角的な研究がなされており、定性的・半定量的には多くのことが分かってきています。
今回のセミナーでは、その天体衝突現象について基本的となる考え方から、それらが隕石に与える影響(特に組織について)を簡単に紹介し、隕石観察による衝撃の推定はどのようになされてきているかを紹介する予定です(衝撃についてほとんど知らない人向けかと思われます)。また、自身の研究対象である衝撃により黒色化したカンラン石についても紹介し、今後の研究についても少し話す予定です。
Speaker: Takanori Kagoshima - UTokyo
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: June 23rd 2015、10:30-12:00
Title
NanoSIMSで紐解く海洋化学進化
Abstract
海洋炭酸塩・リン酸塩試料の微小領域をNanoSIMSを用いて分析することにより、試料形成時の海洋環境を高い時間分解能で復元することが可能である。たとえば、2ミクロンのスポット分析を化石シャコ貝殻に適用することで、Sr/Ca比の変動を基に、シャコ貝の成長速度に影響を与えた当時の日射量の日周変動を復元することができる(Hori et al., 2015; Sano et al., 2012)。また、カンブリア紀のプロトコノドントに対して、U-Pb年代法とSr同位体分析を適用することで、試料形成年代と当時の海水の87Sr/86Sr比とを関連付けることに成功している(Sano et al., 2014)。このように、NanoSIMSでは試料の年代を決定しつつ、当時の海洋環境を一日以下の数時間の時間スケールで復元することが可能になっている。本セミナーでは、今後NanoSIMSによる高分解能の海洋環境解析を行っていくうえで必要と考えられる研究課題と方針を提案する。
[Ref.] Hori et al. (2015) Sci. Rep. 5, 8734.; Sano et al. (2012) Nat. Commun. 3, 761.; Sano et al. (2014) J. Asian Earth Sci. 92, 10-17.
Speaker: Atsushi Takenouchi - UTokyo
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: December 7th 2015、17:00-19:00
Title
火星隕石中黒色カンラン石の詳細分析と形成過程、衝撃との関係
Abstract
火星隕石には黒く着色したカンラン石(黒色カンラン石)が多く報告されている。これまでの電子顕微鏡による詳細な研究によると、黒色カンラン石中には金属鉄や磁鉄鉱のナノ粒子の存在が報告されており、それらは火星から飛び出す際の強い衝突イベントにより形成され、カンラン石の黒色化の原因になっていると考えられている。そのため黒色カンラン石の形成過程や形成条件を探ることは火星隕石の衝撃履歴の解明に繋がると考えられる。黒色化(ナノ粒子の晶出)には様々な形成過程が考えられているが、私達のこれまでの研究で、黒色化は高温での高圧相転移(その後高圧相は低圧相に再度相転移する)に伴い引き起こされる可能性が示唆された。特に、NWA 1950(シャーゴッタイト)の黒色カンラン石中には高圧相転移の証拠と考えられるラメラ組織が見つかっており、Tissint(シャーゴッタイト)中のわずかに着色した領域にも同様のラメラが見られている。今回のセミナーでは火星隕石のSEM、TEM、STEM、顕微Raman、XANESでの分析を元に黒色カンラン石についてを紹介し、その形成過程とそれを引き起こす衝突現象についてを紹介します。特にRamanとXANES分析に新たに特徴が見られたため、形成史を考察しながら紹介します。
Speaker: Takaomi Yokoyama - UTokyo
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: December 14th 2015、17:00-19:00
Title
普通コンドライトに含まれるFe-Ni金属相中の親鉄性元素の比較
Abstract
Fe-Ni金属相はコンドライトの主要な構成物質の一つであり,コンドリュール形成時にコンドリュールから分離したものと予想されている.CampbellらによるLA-ICPMSを用いた一連の研究(Campbell and Humayun, 2002; Campbell et al., 2003)により,普通コンドライト中のFe-Ni金属相の親鉄性元素,特に難揮発性親鉄性元素の濃度が粒子ごとに大きく異なることが見出された.また,粒子ごとの難揮発性親鉄性元素濃度の違いはCRコンドライトからも見出されているが(Connolly et al., 2001),その濃度差が形成過程の温度環境を反映したものなのか,粒子ごとに異なる前駆体を持っていたことによるものなのかが明確ではなく,金属相の形成過程を系統的に理解するには至っていない.本研究では,LA-ICPMSを用いて粒子毎の親鉄性元素を定量分析し, 得られた親鉄性元素パターンを金属相の産状と比較することによりその特徴をまとめた.まず,Salaices H4, Julesberg L3.6, Richfield LL3.7に含まれる金属相を系統的に分析した結果について報告する.いずれのコンドライトにおいても,粒子ごとに難揮発性親鉄性元素の濃度の大きな変動が確認された.Re,Os, IrおよびPt濃度は,非平衡コンドライト(Julesberg、Richfield)の金属粒子間で数桁のオーダーで変動し,なおかつ測定した全ての金属粒子において相互に強い相間を示した.一方で、Os, Ir, Ptの3元素は同じ挙動をするのに対し,Ru, Rhは濃度変動幅が小さい(1桁程度)うえ,相互に濃度相関がなく,Os, Ir, Ptの3元素とは明らかに異なる挙動をとっている.このような粒子ごとの親鉄性元素濃度の大きな違いの原因を探るために,新たにJulesbergの金属相を網羅的に分析し,粒子の大きさやコンドリュールの内外,あるいは硫化物を伴っているか否かといった産状,カマサイト-テーナイト間における元素分別といった各金属相の粒子ごとの特徴と照らし合わせることで,元素分別との関連性を検討した.
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: February 1st 2016, 17:00-19:00
Speaker1: Akinobu Hayakawa - UTokyo
Title
高精度Al-Mg同位体測定を用いた初期太陽系における26Al分布の解明
Abstract
短寿命放射性核種である26Alは半減期73万年を経て26Mgに壊変する。この壊変系は主にコンドライト隕石に含まれている太陽系最初期に形成した物質Calcium,Aluminum-rich Inclusions(CAIs)とコンドルールの相対的な年代を議論するために用いられてきた。二次イオン質量分析計(SIMS)を用いたその場分析から、それらの年代差は200~300万年であることまで分かってきた。また誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を用いたCAIsの高精度な同位体測定では、初期太陽系における26Alの初生比(26Al/27Al)0が5.25 x 10-5であったことまで分かっている(Jacobsenet al. 2008; Larssen et al. 2011)。しかし近年、エコンドライトの母天体集積時における26Alの存在比について議論がされている。絶対年代が分かっているエコンドライトの26Al/27Alの存在比から逆算した26Al初生比は1~2 x 10-5であることが明らかとなった(e.g. Schiller et al. 2015)。この値はCAIsから求められた初生比よりも有意に低い値を示し、原始太陽系円盤における26Al/27Alの均一性について議論の余地が出てきた。そこで本研究は26Alの分布を明らかにすることを目的として、ICP-MSによる高精度Al-Mg同位体測定の準備を進めている。今回の発表では現時点での分析精度と、未だ検討中である今後の研究対象について報告する。
Speaker2: Haruka Ono - UTokyo
Title
エコンドライト中のSiO2鉱物の多形体
Abstract
シリカ鉱物は地球上では地殻を構成する主要な造岩鉱物の一つとして存在しており、様々な温度圧力条件によって23種以上の多形を持つことが知られている(SosmanR. B. 1965)。しかし地球外物質中でのシリカ鉱物の報告例はあまり多くはない(Kimura. et al.2005)。なぜなら、シリカ鉱物は部分溶融によって晶出しやすいため、未分化では出にくく、また分化隕石はシリカ成分の少ない玄武岩質のものが多いからである。分化した隕石であるエコンドライト中でのシリカ鉱物としては、主に輝石や斜長石を含む玄武岩での結晶化末期の副成分鉱物としての報告がある(LerouxH. and Cordier P. 2006)。それらのシリカ鉱物は隕石ごとに幾つかの異なる多形(α-quartz, tridymite,cristbalite etc.)として存在することが知られている。また、ユークライト中では熱水により沈殿したと考えられているQuartzの報告もある(TreimanA. et al. 2004)。しかし、多くの場合、それらは"silica minerals"と報告されるのみであり、詳細な分析や、シリカ鉱物を用いた議論はほとんど行われていない。このため、地球外物質中のシリカ鉱物は、その隕石が含まれていた岩体の温度圧力履歴の条件や形成環境を推測する一つの指標になり得ると考えられるものの、あまり注目されていないのが実状である。本研究では、月、火星、HED隕石、地球のそれぞれの玄武岩中に存在するSiO2多形を比較することによって、各天体ごとの玄武岩形成時における温度圧力履歴の条件および冷却過程の差と形成環境について検討していきたいと考えている。冷却速度の差による違いを考慮するために、それぞれの天体起源の隕石(岩石)から、粗粒な玄武岩と細粒な玄武岩の少なくとも2種類ずつを用いて研究を行う予定である。今回の発表では、SiO2鉱物についての簡単なレビューとこれまでの研究成果について、主に3つのcumulate Eucrite中のSilica mineralsに着目し、その岩石の冷却過程や形成環境とSilica mineralsの転移速度について考察する。
Speaker: Kohei Fukuda - UTokyo
Place: Room 839 Faculty of Science Bldg.1, UTokyo
Time: February 15th 2015、17:00-19:00
Title
マルチ同位体分析から考察する隕石中High temperature componentsの形成場および原始太陽系円盤環境
Abstract
未分化隕石中に含まれるHigh temperature components (HTCs)である難揮発性包有物やコンドルールは、太陽系固体物質の中で最も古い絶対年代を示すことがわかっている。したがって、HTCsの形成過程の理解は、原始太陽系円盤の初期進化(主に高温イベント)を理解する上で重要である。これまでHTCsに対する鉱物科学的および同位体的研究がなされてきたが、形成過程は未だ議論の最中であり、特に形成場に関する情報が欠けている。HTCsの様々な同位体システムを組み合わせることで、形成場に関する情報が得られるかもしれない。10Beは短寿命放射性核種のひとつで、高エネルギー宇宙線による核破砕反応によって生成される核種であり、星内部の核合成では生成しない。このことから、初期太陽系における主な10Beの生成場は原始太陽近傍での太陽宇宙線照射領域と予想される。したがって、惑星物質の10Be存在度の決定は、原始太陽の活動度や惑星物質の形成場を制約できるという点で重要である。この10Be存在度と近年隕石母天体の分類にも用いられ始めた安定同位体比(酸素、チタンおよびクロム同位体比など)を同時に決定することができれば、HTCsの形成場に関する新たな知見が得られると期待される。このような背景を受け、私はHTCsに対する10Be-10B系と各種安定同位体比を組み合わせたマルチ同位体分析を計画している。本発表では大気海洋研究所設置のNanoSIMS 50を用いたCOおよびCHコンドライト中CAIおよびオリビンインクルージョンの10Be-10B分析結果を報告する。