Title
Formation of the mesosiderite parent body
Abstract
We are interested in mesosiderites because they formed early in the solar system and close to the surface of the parent body. There still remain unanswered problems; (1) the source of metal, (2) mechanism and timing of reheating, (3) the cause of slow cooling at low temperatures. Recently, a few more samples were studied. Based on the compiled data, we try to understand these problems.
Title
NWA7325の鉱物学的研究
Abstract
NWA7325は2012年2月に西サハラで回収された35個の岩片 (総量345g) からなる暗緑色のエコンドライトである.この隕石は既存のどのエコンドライトグループにも属さない隕石であり,Al/Si, Mg/Si比の値やFeが非常に乏しい点がNASAのMessenger探査機による水星の表面組成データとよく一致していることから,これまでに見つかっていない水星起源隕石の可能性が指摘され (Irving et al. 2013, Weider et al. 2012),注目を浴びている.NWA7325が本当に水星起源であるのかどうかを証明することは水星からのサンプルリターンがない現段階では難しいが,母天体に関する情報がほとんど得られていないこの隕石を鉱物学的視点から観察・分析し,その結果を他の隕石と比較することで,初期太陽系で形成されていた隕石母天体上の火成活動についての重要な知見を得られることが期待される.本研究の目的はNWA7325の詳細な鉱物学的研究を行うことで,この隕石の形成環境を明らかにし,どのような母天体の環境が考えられるか検証することである.
Title
火星隕石中黒色カンラン石の形成過程と形成条件
Abstract
一部の火星隕石では衝撃によりカンラン石が黒色化し、反射スペクトルや磁化率が変化している。それは衝撃によりカンラン石中にナノスケールの鉄粒子が形成されるためと考えられているが、その形成過程については不明な点が多い。本研究では黒色化したカンラン石の詳細観察により鉄粒子が様々な形態をとることを発見し、それらが鉄の拡散により形成されるという仮説をたてることができた(卒論後の発表)。一方で、その黒色化がどのような条件で起こるのかは未だに明らかになっていない。カンラン石の黒色化は火星隕石にのみ見られる特異な現象であるため、その形成条件は火星における衝突の特有な情報を反映している(大きな母天体サイズ、酸素分圧、水の存在など)と考えられる。そのため現在いくつかの火星隕石と衝撃を受けた隕石を観察、比較し、黒色化の条件に制約を与えることを試みている。今回はその経過を発表し、今後の計画も少し発表する。
Title
In-situ quantitative analysis of trace elements in metal grains from H, L and LL ordinary chondrites using femtosecond laser ablation-ICP-mas
Abstract
始源的隕石(コンドライト)中に見られる金属相はコンドライトの主要な構成鉱物の一つである。金属相には親鉄性元素が選択的に分配され、またその分配挙動は温度・圧力・酸素分圧等の物理化学的条件によって大きく変化する。従って、金属相に含まれる親鉄性元素の濃度・分配挙動を調べることで、金属相の形成過程に直接的な知見を引き出すことができる。コンドライトに含まれるmmサイズの金属相ついては、金属粒子毎に親鉄性元素濃度が大きく変化し、その分別挙動が粒子毎の成因を反映したものなのか、生成領域を反映したものかが明確ではなく、金属相の形成過程を系統的に理解するには至っていない。この背景には、金属相中の微量親鉄性元素の正確な定量分析が難しいという分析学的な問題がある。そこで本研究では、各金属粒子内での均質性・不均質性を評価しつつ正確な微量親鉄性元素濃度を決定するための新しいレーザーアブレーション-ICP質量分析法を開発し、親鉄性元素の分配挙動、各粒子内での不均質性を評価することとした。また本研究では、先行研究で殆ど報告例がない非平衡コンドライトに注目し、金属相中の親鉄性元素を分析した。
本研究では不定形な金属粒子の微量元素を分析するため、ガルバノメトリック光学系を導入し、複数の固体試料をほぼ同時にレーザーアブレーションできる多点同時アブレーション装置の開発を行った。これにより、不定形な鉱物や、複数の鉱物から高い分析空間分解能を保持したままレーザーサンプリング効率を向上することが可能になったうえ、固体試料においても分析元素の希釈や内標準元素の添加が可能になるなど、定量分析の汎用性が大きく拡張できた。本章では、多点同時アブレーション装置の分析性能を評価するために、二つの応用分析を行った。一つ目は、異なる固体試料を同時にアブレーションすることで、固体試料を「混合」する手法であり、本研究では固体試料中の微量元素分析に際し標準添加法の適用を試みた。二つ目の応用分析は、複数の微小鉱物試料を同時にレーザーアブレーションする手法である。複数の試料から放出された試料エアロゾルを「積分」することで、個々のレーザー照射径を10 μm以下にまで絞り込みつつ、分析に必要な試料量を確保することが可能となった
LA-ICPMS法を用いた定量分析の主流は相対法であり、定量結果の信頼性は、標準試料の質が鍵を握る。本研究では、隕石中の金属相に含まれる微量親鉄性元素の分析を目的としているため、正確な元素濃度情報を引き出すには、均質な金属標準物質が不可欠である。しかしながら、本研究で分析対象とする親鉄性元素が網羅された金属質標準試料は市販されていない。こうした背景から、本研究では分析対象となる親鉄性元素を網羅したFe-Ni合金の金属標準物質の合成を行った。さらに隕石に含まれる金属相の不均質性を正確に評価するためには、レーザービーム径(10 μm程度)での試料の均質性を保証する必要がある。このため、様々な親鉄性元素を添加した鉄・ニッケル粉末をアーク溶融によって固体化するとともに、EPMAおよびLA-ICPMS法を用いて分析元素の均質性の評価を行った。金属試料を圧延後1200°Cで20時間の熱処理を行い、拡散による均質化を図った結果、作成した合金試料内の親鉄性元素を数μm以下のスケールまで均質化することに成功し、LA-ICPMSによる金属相中の微量親鉄性元素定量分析に適用できる金属標準試料を合成することができた。
本研究において開発した多点同時分析レーザーアブレーション法と合成した金属質標準物質に基づいて、普通コンドライト金属相中の親鉄性元素分析を試みた。本研究では、これまで分析例が殆どない非平衡コンドライトに注目し、Salaices H4, Julesberg L3.6, Richfield LL3.7に含まれる金属相を系統的に分析した。この結果、いずれのコンドライトにおいても、主成分濃度(Fe-Ni-Co)および揮発性元素(Au, Pd, Cu, Ge)の変動を伴わない難揮発性親鉄性元素の濃度変動が確認できた。Re, Os, IrおよびPt濃度は、非平衡コンドライト(Julesberg、Richfield)の金属粒子間で数桁のオーダーで変動し、なおかつ測定した全ての金属粒子において相互に強い相間を示した。一方で、Os, Ir, Ptの3元素は同じ挙動をするのに対し、Ru, Rhは濃度変動幅が小さい(1桁程度)うえ、相互に濃度相関がなく、Os, Ir, Ptの3元素とは明らかに異なる挙動をとっている。本研究で見られる重PGEおよびReと軽PGEの分別に近い親鉄性元素パターンを持つ物質として現在知られているものは、CVコンドライトEfremovkaに存在するFremdringe(難揮発性新鉄元素に富む塊)の外縁部に存在する金属相、およびschreiberite ((Fe, Ni)3P)のみである。本研究で得られた重PGEおよびReに乏しい親鉄性元素パターンを示す普通コンドライト中の金属粒子の前駆物質は、金属相形成以前、あるいは溶融時に形成したschreibersiteとの関連が示唆される。
Title
Mineralogical study of seven Itokawa asteroidal particles: Reconfirmation of their similarities to equilibrated LL chondrites
Abstract
はやぶさ探査機が2010年にサンプルリターンした7粒の小惑星イトカワ塵に対して、光学顕微鏡、SEM、EPMA、ラマン分光、放射光XRD・XANESによる鉱物学的研究を行った。分析した塵は主にカンラン石と斜長石から成り、輝石は含まれていなかった。いずれの塵もカンラン石・斜長石が波状消光を示すことから弱い衝撃変成を受けていることが推測され、衝撃ステージはS2に相当する。カンラン石はFo70-73で、放射光XRDで得られた格子サイズと調和的であった。また、斜長石はAn13-10Or5-7で、SR-XRDによって得られた結晶構造から見積もられる平衡温度は約800度であった。これは普通コンドライトのピーク熱変成温度に近い。斜長石の放射光Fe-XANES実験からは高いFe3+/Fe2+比が得られ、酸化的環境で形成されたことが示唆されるが、カンラン石組成と合わせていずれもLLコンドライトと類似している。また、斜長石は20ミクロン以上の大きさがあり、カンラン石がほぼ均質化していることと合わせて、岩石学タイプは5以上である。
以上のことから、分析した塵はいずれも弱い衝撃を受けた平衡LLコンドライトである可能性を示しており、初期分析チームによって得られた結果を再確認するに至った。
Title
1. Helium anomalies suggest a ?uid pathway from mantle to trench during the 2011 Tohoku-Oki earthquake
2. Past daily light cycle recorded in the strontium/calcium ratios of giant clam shells
Abstract
1. Geophysical evidence suggests that ?uids along fault planes have animportant role in generating earthquakes; however, the nature of these ?uids has not been well de?ned. The 2011 magnitude 9.0 Tohoku-Okiearthquake ruptured the interface between the subducting Paci?c plate and the overlying Okhotsk plate. Here we report a sharp increase in mantle-derived helium in bottom seawater near the rupture zone 1 month after the earthquake. The timing and location indicate that ?uids were released from the mantle on the sea?oor along the plate interface. The movement of the ?uids was rapid, with a velocity of ~4 km per day and an uncertainty factor of four. This rate is much faster than what would be expected from pressure-gradient propagation, suggesting that over-pressurized ?uid is discharged along the plate interface.
2. The historical record of daily light cycle in tropical and subtropical regions is short. moreover, it remains difficult to extract this cycle in the past from natural archives such as biogenic marine carbonates. Here we describe the precise analysis of Sr/Ca, mg/Ca, and Ba/Ca ratios in a cultivated giant clam shell, using a laterally high-resolution secondary ion mass spectrometer with 2 μm resolution. The Sr/Ca ratio exhibits striking diurnal variations, reflecting the daily light cycle. A clear seasonal variation in Sr/Ca is also observed in another longer set of measurements with 50 μm resolution. Light-enhanced calcification and elemental transportation processes, in giant clam and symbiotic algae, may explain these diurnal and annual variations. This opens the possibility to develop the Sr/Ca ratio from a giant clam shell as an effective proxy for parameters of the daily light cycle.
Title
NWA 7325エコンドライトの鉱物学及び希ガス同位体組成から見た形成過程について
Abstract
現在,エコンドライトの中には既存の分類グループに属さない隕石がいくつか存在している.これらの隕石を研究することは,太陽系物質進化過程において形成された小天体の多様性や原始惑星での火成活動に関しての新たな知見が期待できるという点で非常に重要である.本研究で分析したNorthwest Africa 7325 (NWA7325)は2012年に発見されたUngroupedなエコンドライトであり,水星起源の可能性が指摘されたことで注目を集めている [1].しかし,54Cr/52Cr比や古いU-Pb年代からはユレイライトとの関係性が指摘されている [2].
本研究では,この隕石の母天体での火成活動の理解に向けて,薄片試料の光学顕微鏡による観察,EPMAによる元素マッピングおよび鉱物ごとの定量分析,FEG-SEMによる微細組織の観察を行うとともに,希ガス同位体組成の測定も行った.光学顕微鏡,FEG-SEMによる観察から,NWA 7325は集積岩組織を示すmmサイズの均質なDiopside (Fs-1Wo-45, 0.95 wt% Cr2O3), Anorthite (An-90), Forsterite (Fo-97)から成ることがわかった.斜長石は元の結晶方位を維持しているものの内部は細粒化しており,輝石が部分的に形成されている.また,鉱物境界には細粒の結晶が析出しており,共融系による二次的な部分融解を経験していることが示唆される.光学顕微鏡による観察では,鉱物境界の溶融部分が大きく移動した痕跡は見られず,5μm程度の結晶サイズしかないので,メルトの移動が起こる前に急冷されたと考えられる.これらの観察結果はいずれも,元々の隕石がマグマの徐冷により集積岩として結晶化した後に,衝撃により母天体が破壊されるような急冷イベントを経験して上記の鉱物学的特徴を形成したと考えられる.希ガス捕獲成分が非常に良く脱ガスされており,短寿命核種129Iのβ壊変による129Xeが存在することや,244Puの核分裂起源Xeがほとんど見られないことから,この隕石は太陽系最初期に分化が進行した母天体のマントルに相当する部分に存在したものであろう.その後何度かの破壊を経験した母天体から,最終的にこの隕石が飛び出したのは約2千万年前である.
文献:[1] Irving A. J. et al. 2013. LPSC XLIV, 2164. [2] Kita N. et al. 2014.LPSC XLV, 1455.