研究概要 (ポスター



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本研究室では、

 太陽系の形成から現在に至るまでの固体物質の生成・進化及び、惑星形成と内部進化の法則性について研究を行っています。具体的には、走査・透過電子顕微鏡・X線回折など種々の微小領域分析手法を用いた隕石や月の石などの物質科学的研究を中心として多くの研究プロジェクトを進めています。

 地球・惑星及び隕石に産する固体物質の単位を鉱物として捉え、鉱物の結晶構造、結晶集合組織、物理学的・化学的性質と、さらにそれらの形成と鉱物生成の物理学的・化学的条件の関係に着目している点が大きな研究の特徴です。

 また、アメリカのNASAジョンソン宇宙センターをはじめとして、海外の多くの研究機関と共同のプロジェクトを行っており、海外研究者との交流も盛んです。


研究内容

太陽系における天体進化の一般過程の解明を目指して各種の固体惑星物質の研究を行っています。その中でも隕石は、太陽系誕生時に存在したマイクロメートルサイズの塵から惑星サイズへ成長した固体物質の進化過程を記録しています。これらを主に走査型・透過型電子顕微鏡、電子線マイクロプローブ、放射光X線分光計などを用いて分析し、さらに室内実験を組み合わせて、地球外物質の形成環境の解明を行うことで、天体進化を議論しています。また、通常の隕石試料だけでなく、NASAのStardust探査機がサンプルリターンしたWild 2彗星塵、JAXAはやぶさ探査機が持ち帰った小惑星イトカワ塵、そしてはやぶさ2探査機によるリュウグウ試料の分析にも携わっています。さらに、火星隕石・月試料についても研究し、太陽系の天体進化史をトータルに理解するよう心がけてきています。分析手法も各種の微小領域分析装置を組み合わせて多角的に実施し、微小試料から最大限の情報を得るように努めているのが特徴です。これらの惑星物質の進化過程では衝撃変成作用が非常に重要な素過程になっていることから、最近はこの作用にも注目して研究を行っています。 (これまでの研究の紹介論文はこちら
最近の主要な成果には以下のものがあります(太陽系の天体進化度順)。

1.炭素質コンドライトに注目して、電子顕微鏡に付属した後方散乱電子線回(EBSD)装置により、これまでに未知であった鉱物を発見してきました。例えば、Kaidun隕石中のFlorenskite(FeTiP)、Andreyivanovite(FeCrP)、NWA 470隕石中のDmitryivanovite(CaAl2O4)、ALH 85085中のKushiroite(CaAl[AlSiO6])です。これらの新鉱物の発見は、各試料の詳細な観察・結果による産物で、それぞれ原始太陽系星雲やダストが集積した母天体における形成環境に重要な制約を与えるものです。

2.NASAのスターダスト探査の初期分析チームとして、探査機が持ち帰って来たWild2彗星の塵を電子顕微鏡、放射光X線回折を用いて分析し、カンラン石や輝石が主要鉱物として含まれることを明らかにしました。 また、はやぶさ小惑星探査機がサンプルリターンを行った小惑星イトカワの微粒子を分析し、約800度の熱変成を受けた普通コンドライト(LL5〜6)とよく一致することを示しました。最近は、初期分析チームで精力的にリュウグウ試料の鉱物分析を行っています。

3.小惑星として宇宙空間で観測された天体が地球に隕石として落下した初めての例であるAlmahata Sitta隕石の分析を行い、輝石の微細組織の観察より高温から急冷したことを示し、金属鉄の詳細な分析からその後の超急冷過程も存在することを明らかにしました。Almahata Sitta隕石をはじめとした様々な角レキ化した隕石の分析により、母天体が破壊され、さらにその破片が再集積するイベントが太陽系での天体進化において普遍的であることを指摘しました。

4.約45.6億年前の形成年代を持つ分化隕石(アングライト、ユークライト、ブラチナイト)の形成過程を鉱物分析や酸素雰囲気制御電気炉を用いた結晶化実験によって解明を行ってきました。アングライトではカンラン石の外来結晶の微量元素組成や変形組織に注目し、アングライトの親マグマ組成との関連性を指摘しました。ユークライトは、シリカ鉱物に注目することで、結晶化・熱変成過程に制約を与えることが可能となりました。ブラチナイトは、カンラン石に見られる結晶軸配向性を電子顕微鏡で調べ、母天体内でのダイナミックな活動を浮き彫りにしました。

5.月試料中の斜長石に含まれる鉄の価数を放射光X線分光法(XANES)により分析し、月斜長岩が他の月試料に比べて優位に3価の鉄の割合が高いことを明らかにしました。このことは、月のマグマオーシャンの固化が酸化的環境で起こったことを示しており、近年注目されている月に存在する水などの揮発性物質の進化過程との関連が示唆されます。

6.多くの火星隕石について、詳細な岩石・鉱物分析を行って来ています。結晶化実験も合わせた結果、火星表層近くでのマグマ結晶化過程が明らかになってきたシャーゴッタイトと呼ばれる火星隕石の大部分を占めるグループでは、ほとんどがカンラン石や輝石の集積岩であるが、少数にマグマから直接、過冷却下で結晶化した試料があることを発見しました。また、第2のグループであるナクライト火星隕石については、このグループに属する多くの隕石が火星の同じ岩体を起源とし、さらに岩体の中で各試料が表層から深部まで層状に分化していたと言うモデルを提唱しました。

7.以上、すべての地球外物質において、衝撃変成は天体進化に付随して最も主要な素過程の一つです。衝撃組織や鉱物の分析だけでなく、衝撃実験を合わせた上で、特に火星隕石に注目して強い衝撃変成で起こるカンラン石の特徴的な変化のメカニズムを検討しました。その結果、衝撃変成作用によりカンラン石が黒色化することが普遍的に起こっており、この原因がカンラン石中に析出した鉄のナノ粒子であり、不均化反応により形成されることを示しました。