研究内容
<はじめに>
私たちの研究室では、宇宙環境・惑星圏科学分野の研究を以下の3つの方向性に重点をおきつつ研究を進めています。先端研 Master Bookの研究分野紹介もご覧下さい。
宇宙環境変動を引き起こす(惑星)宇宙天気現象の研究
“宇宙天気”とは、宇宙および地上の技術システムの性能と信頼性に影響を与えたり、人間の生命と健康を危険にさらす可能性のある、変動する太陽表面、宇宙空間、そして惑星圏の状態のことを示しており、宇宙天気現象にはオーロラや宇宙放射線変動が含まれます。プラズマの世界である惑星を取りまく宇宙空間は、惑星がグローバルな固有磁場を持つか否かで様変わりするため、地球から惑星宇宙天気研究への拡張は喫緊の要請です。探査機等による観測と数値実験を組み合わせることにより、惑星まで拡張した宇宙天気現象の理解を目指しています。
太陽活動が惑星表層環境に与える影響を理解する宇宙気候研究
惑星が地球のように表層に海をたたえたハビタブルな表層環境を保つには大気が必要です。地球型惑星の大気保持条件を理解するための重要課題である、宇宙空間への惑星大気散逸の恒星XUV放射、固有磁場強度依存性を、太陽系内の惑星の知見を集約した独自の数値モデル開発と系外惑星への応用により解明しようとしています。
本格的な火星圏探査に向けて
月から火星へと国際宇宙探査が進む中、我が国でも本格的な火星圏探査が始まりつつあるとともに、民間企業の宇宙探査へ参画の機運が高まっています。NASA等の火星探査に携わってきた火星圏科学の専門家としての知見を活かし、将来の探査計画の立案などにも取り組んでいます。
<研究トピック>
ジオスペース環境変動
太陽から放出される超音速プラズマ「太陽風」は、地球の大気や磁場と相互作用することで地球をとりまく宇宙環境(ジオスペース環境)に様々な影響をおよぼし、放射線帯の変動や大規模電流系の形成など、さまざまな宇宙天気現象を引き起こします。私たちは、多数の人工衛星や地上観測網が整備されている地球において、衛星多点観測(プラズマ・電磁場の直接観測)や衛星地上同時観測を活用し、放射線帯(高エネルギープラズマ)の変動、地球大気起源プラズマの流出・輸送過程、宇宙空間の大規模電流構造などを調査し、特に太陽風の変動に対する応答の解明を目指しています。得られた知見は、地球のみならず火星などの他の惑星や衛星における空間環境の理解にも繋がり、将来の宇宙探査や惑星環境予測の基盤となることが期待されます。

火星を取りまく宇宙放射線環境とオーロラ
火星は地球のようなグローバルな固有磁場は持たず、太陽風と火星大気が直接相互作用しています。磁場によるバリアを持たない火星においては、低高度まで太陽風や太陽宇宙線が侵入し、大気散逸や地球とは異なるタイプのオーロラを引き起こしていることがわかってきました。将来の火星有人探査への応用という観点からも、火星の宇宙放射線環境と太陽変動の関係を理解することは、火星における宇宙天気研究の重要な課題となっています。最新の火星周回探査機による観測により、火星では至るところで多様な形態のオーロラが発生していることが明らかになってきました。特に、太陽宇宙線は全球的に火星表層付近の低高度まで到達し、夜側全域にわたってグローバルなオーロラ現象を引き起こします。

私たちは、探査機の観測データ解析と数値シミュレーションを駆使し、太陽宇宙線に対する火星大気の応答過程、すなわち、オーロラの発生機構や電離・中性大気組成の変動過程の解明を目指しています。この研究は、地球との比較を通じて、磁場や大気が宇宙放射線をどのように遮蔽するのかの理解につながるとともに、将来の火星有人探査における放射線被曝の予測にも貢献することが期待されます。
火星からの大気散逸が気候変動に果たした役割
約40億年前の火星は海を持ち温暖湿潤な気候であったと推定される一方で、現在の火星は寒冷で乾燥した気候を持つ惑星です。このような劇的な気候変動を引き起こすには、少なくとも1気圧分程度のCO2大気が表層環境から取り除かれる必要があると考えられており、宇宙空間への大気散逸が重要と考えられています。火星気候変動の重要課題の一つに、CO2大気を宇宙空間に逃がすことができる物理機構の解明がありますが、図に示すように非磁化惑星からの大気散逸メカニズムは太陽風の影響が顕著なものと太陽放射が重要なものが複数寄与していると考えられており、各々の太陽変動への応答を理解することができれば、太古の火星や系外惑星への応用も可能となります。

現在でも火星の大気は太陽からのX線・極端紫外線放射や太陽風との相互作用によって絶えず宇宙空間へと散逸しています。グローバルな固有磁場を持たない一方で地表面に局所的に強い地殻磁場が存在している火星では地球とは違ったユニークな磁気圏が形成されており、電離した大気の散逸(イオン散逸)のプロセスも大きく異なっています。私たちの研究室では、NASAのMAVEN他の火星周回探査機による観測データと大規模数値シミュレーションを活用して、火星における大気散逸の物理メカニズムや太陽活動や季節変化に伴うその時空間変動を理解し、現在だけでなく過去の火星における大気散逸過程を究明することを目指しています。この研究は、過去に厚い大気と液体の水を保持していた火星がどのようにして現在の希薄な大気環境に至ったかをはじめとして、惑星における大気の進化および生命居住可能性の理解につながることが期待されます。
固有磁場強度が地球型惑星からの大気散逸に与える影響
上述したように、惑星周辺の宇宙環境は、その惑星の持つ固有磁場の強さによって大きく異なっています。固有磁場を持たず太陽風と大気が直接相互作用する火星においては、太陽風による大気の剥ぎ取り(大気散逸)が表層環境の進化を左右し得ることが、過去の研究から示唆されています。しかし、私たちの知識の殆どは、現在の地球に関する研究に基づいており、地球の固有磁場強度が変化したときに、電磁気圏環境がどのように変化しどのくらいの大気が流出するのかを予測できる段階には達していません。地球型惑星からの大気散逸の理解に不可欠な惑星電磁気圏環境の基本的な性質には、物質輸送とダイナミクス、環電流およびプラズマ圏の形成、大気流出機構の3つがあります。

私達の研究室では、この3つの基本的性質に着目し、火星で実績のある数値シミュレーションを様々な固有磁場条件に応用することで、地球型惑星からの大気散逸に固有磁場強度が与える影響を解明することを目指しています。ここで得られる知見は、過去の火星からの大気散逸量を推定する手がかりを与えるとともに、様々な固有磁場強度を持つ系外惑星からの大気散逸量を推定することを可能にします。
<主なプロジェクト>
- 恒星活動が地球型惑星周辺宇宙環境および大気散逸に与える影響に関する研究
(基盤A: 2025-2028年度) - ICAR–RHAPS (Retention of Habitable Atmospheres in Planetary Systems)
- 火星大気における炭素・窒素の進化と生命関連分子生成環境の研究
(基盤A: 2022-2026年度, 分担) - MACH (The Magnetic fields, Atmospheres, and the Connection to Habitability ) DRIVE Science Center
- NASA MAVEN Participating Scientist Program:
Effects of regional couplings on the ionospheric flows and the atmospheric escape from Mars - PWING
〜磁気圏の粒子の加速を把握し、安心・安全な宇宙利用を目指す〜
特別推進研究「地上多点ネットワーク観測による内部磁気圏の粒子・波動の変動メカニズムの研究」(2016-2021年度) - 参画している主な科学衛星ミッション:
- ERG/Arase (JAXAジオスペース探査計画)
- MAVEN (NASA火星探査計画)
- MMS (NASA宇宙プラズマ探査計画)
- BepiColombo (ESA-JAXA共同水星探査計画)
- MMX (JAXA火星衛星探査計画)