日本が2001年から開発に着手した金星探査機は2010年に打ち上げられ、2015年から金星周回軌道で観測を開始した。 探査機は“あかつき”と名付けられている。“あかつき”以前に金星を探査した20世紀のソ連、アメリカの探査結果から得られる静的な金星像、 つまり、大気の温度分布、組成、気圧、風速、固体表面の地形といった時間変化の少ない描像が我々の知っているものであるとすると、 21世紀における探査として我々が目指したものは、日々動的に変化する大気の動きを捉えるというものであった。 特に金星大気は地球と違って、緯度によらず地表より速く一様に回転しており、雲頂高度付近ではそのスピードは自転速度の60倍にも達するが、 これが発現するメカニズムの解明は大きな科学目標となり得た。日本の金星探査機は特に地表面から雲層への角運動量の輸送を定量的に明らかにすることを目指した。 この為、異なる高度での大気の動きを可視化するために紫外から中間赤外に到る観測波長の異なる5台のカメラを搭載し、 このカメラの観測に最適な条件を満たすように探査機は企画された。打ち上げ後のエンジントラブルにより、金星到着は当初予定の5年後、 2015年12月7日となったが、到着した数時間後には三つのカメラが観測を始め、 特に雲の温度構造を調べる中間赤外カメラはすぐに科学的インパクトのある画像を送ってきた。 それは、今まで知られていなかった地形性の大気重力波が70kmの高さにまで達して惑星規模の弓形をした構造を形成している事を示している画像だった。 本講演ではこの様な事象を初めとして、様々に科学的関心の高いと思われる観測についてレビューする。
あらせ(ERG)衛星は,ジオスペースにおいて最高エネルギーのプラズマ粒子が捕捉されている放射線帯の物理解明を目的として, 2016年に打ち上げられた科学衛星である.放射線帯は1958年にExplorer1によって発見され,今年で発見後60年が経過するが, 超高エネルギープラズマの生成・消失メカニズムの確固たる証拠を捕らえた観測は成し遂げられていなかった. あらせ衛星は放射線帯に自ら突入する軌道をとり,放射線帯の厳しい環境下でも高い科学性能を維持可能な9つの科学観測装置が連携して観測を行うことで, 放射線帯粒子が生成・消失する過程のその場観測を目指している.本講演では,あらせ衛星の打上に至るまでの過程と,打ち上げ後の約1年半の間に得られた科学成果を取り上げ, プロジェクト内の「若手」の視点から,衛星開発で得られたノウハウや経験を紹介する.また,あらせの観測で培った経験は次世代の科学観測ミッションに応用されつつある. 2018年に打上予定の日欧共同水星探査プロジェクトBepiColomboの「みお」衛星はその一例であり,本講演では打ち上げ直前の作業の様子を中心に紹介する.