カソードルミネッセンス(CL)とは、試料に電子線を照射したときに起きる(可視光)発光現象です。電子線によってはじき飛ばされた電子の軌道順位に、より高い順位から落ちてくる電子が出すエネルギーが光として放出されるのです。試料の微量成分組成によって、発光するかどうか、また何色に光るか、が決まります。
Yamato81020 隕石(始原的な炭素質隕石)には、アメーバ型オリビン凝集物(AOA)と呼ばれる始原的な包有物が少なからず含まれています。その中のforsteriteを選び出し、カソードルミネッセンスを撮ってみました。AOAには赤いルミネッセンスを示すものと、やや青みがかったルミネッセンスを示すものがます。青みがかったルミネッセンスは、Al、Ti、あるいは格子欠陥のせいだと考えられています。赤いルミネッセンスは、Mn、Crの発光と考えられます。このMn、Crの濃集がどこで起きたものかは、現在研究中です。
消滅核種53Mnは半減期370万年で53Crに崩壊する。
この370万年というタイムスケールは太陽系初期の小惑星の歴史を解明するのに適しています。
初期太陽系には26Alという放射性核種が存在していてその崩壊が小惑星の重要な熱源となっています。地球の内部が暖かいのは放射性元素ウランの崩壊によるのと同じ原理です。26Alの寿命が短いのと、小惑星が小さいため、の2つの理由によって多くの小惑星は1000万年程度経つと冷えてしまいその後は何事も起りません。従って小惑星は太陽系の初期のことを覚えているわけです。多くの小惑星は熔けてケイ酸塩のマントルと、鉄のコアという地球と似たような構造をもつことになります。この鉄のコアの部分が壊れてできたのが鉄隕石です。従ってこの鉄隕石の歴史を調べると(ある種の)小惑星の歴史がわかることになります。年代測定の原理は53Mnが崩壊してできた53Crが過剰になるのでCrの同位体比が普通のもの(たとえば地球の石)と異なることを利用します。 Crには50Cr,52Cr,53Cr,54Crの4つの同位体がありますが、この中で53Crだけが過剰になります。Mnの多いものほど53Crの過剰が大きくなります。この様な比例関係をアイソクロン(等時線)と呼びます。 このような測定を精度よく行うためにはMnがたくさんあってCrが少ない鉱物を局所的に測定する必要があります。そのために2次イオン質量分析計(SIMS)を用いて測定を行います。SIMSの測定結果の例がFig.1に示されています。
これまでの鉄隕石の測定結果から
隕石の中でもとりわけ、コンドライトと呼ばれる一群は「始源的隕石」とも呼ばれ、隕石母天体における情報だけでなく、原始太陽系星雲内で生じたさまざまな出来事(たとえばコンドルールと呼ばれる球粒やCAIと呼ばれる高温鉱物の集合体などを形成した高温過程)に関する情報も保持しています。二次イオン質量分析計(イオンマイクロプローブ)を用いると、隕石を構成している鉱物粒子ひとつひとつに対し同位体分析・微量元素分析をおこなうことが可能です。私たちは、10ミクロンスケールでの酸素同位体分析技術を開発し、それをCAI、コンドルール等に適用しました。その結果、酸素同位体異常(質量数16の酸素が4-5%過剰に存在する)が、CAIを構成する高温鉱物だけでなく、オリビン(隕石中に最も普通に見られる鉱物)にも広く存在することを発見しました(Hiyagon and Hashimoto, 1999)。これは未解明の酸素同位体異常の起源について考える上で大きなヒントになっています。
最近は、希土類元素分析に取り組んでおり、CAIが高温においてどのような蒸発・凝縮、固体とガスの分離を経験したかを調べようとしています。蒸発・凝縮などのプロセスは、マグネシウム・シリコン等の同位体組成にも反映されます。また、原始太陽系で起きた出来事のタイムスケールを知るには、26Al-26Mg, 41Ca-41Kあるいは53Mn-53Crといった、半減期が数百万年以下の短寿命放射性核種を用いた「時計」が使えます。イオンマイクロプローブを用いるとで、同一試料に対して、これら複数の分析を総合的におこなうことが可能になったのです。
始原的隕石に見つかる難揮発性包有物には、稀に48Ca及び50Tiに同位体以上を持つものがある。これは、CAI形成当時の太陽系に同位体の不均一が存在した証拠と考えられている。この不均一性を理解するには、48Caと50Tiの同位対比以上の相互関係や、CAIの典型的な酸素同位体比異常との関係が重要であると考えられる。 そこで、包有物の酸素同位体とCa、Tiの同位体組成をSIMSで分析した。
結果1:48Ca、50Tiの同位体異常の正負にかかわらず、多くがデルタ48Ca/デルタ50Ti==1.5の直線上に分布。また、同位対比異常は、Ca/Ti組成比と相関無し。→デルタ48Ca、デルタ50Ti異常はプレソーラー粒子の影響ではなく、CAI起源物質の特徴を残していると考えられる。
結果2:48Ca、50Tiの同位体異常の正負にかかわらず、CAIに典型的な酸素同位対組成を持つ(CCAIライン上にのる)。→酸素同位体とCa、Ti同位体比異常の起源が異なる。
Ningqian(炭素質)隕石には、高温凝縮物から低温凝縮物まで、いろいろな温度で凝縮したと考えられる多様な難揮発性包有物(CAI)とアメーバ状オリビン(AOA)が含まれている(CAIとAOAのバルクの化学組成と理論的凝縮モデルから推定;Lin & Kimura, 2003)。そこで私たちは、CAIとAOAに含まれる鉱物の希土類元素(REE)組成をSIMSで分析し、バルク組成(凝集過程)との比較から、CAIの形成過程を明らかにしようと試みた。
ほとんどのCAI&AOAで、Eu(と時にはYbも)異常の見られるフラットなREEパターンが得られた。NQW1-16というCAIからだけは、グループIIパターン(重いREEが軽いものより少ないパターン)が得られた。しかし、現時点ではCAI&AOA中鉱物のREEパターンとバルク組成には、明確な相関は見られなかった。
その一方で、いくつかの、比較的低温で凝縮したと考えられるCAIからは、Ce、Yb、Euの正の異常のあるREEパターンが得られた。このパターンは、CAIが形成された時にほとんどのREEが気体であったこと、それから形成環境が比較的酸化的であったことを示唆している点で、とても興味深い。