惑星物質科学
惑星物質科学
これまでに人類は地球外物質として様々な固体試料を入手しています.隕石や月の試料,宇宙塵,最近ではJAXA「はやぶさ」探査機やNASA「スターダスト」探査機によるサンプルリターンによって得られた小惑星イトカワ塵やWild 2彗星塵も含まれます.これらの物質は大小様々ですが,私達はミクロのスケールで岩石・鉱物・同位体化学的に詳細な分析を行うことで,太陽系がいつどのように誕生して,その後にどのような過程を経て現在の姿に至ったかを明らかにしようとしています.
隕石の同位体分析・微量元素分析に基づく初期太陽系の年代学・物質科学
コンドライトと呼ばれる始原的な隕石には,CAIと呼ばれる太陽系最古の固体物質やコンドルールと呼ばれるミリメートルサイズの岩石質の球粒が含まれており,微惑星形成以前に原始惑星系円盤中で生じたプロセスを記録しています.実は,それら個々の粒子は,形成された場所も時間も異なることがわかってきています.私たちは,これら個々の構成物質の微小領域に対する同位体分析や微量元素分析を通じて,原始太陽系の進化の過程を解明しようとしています.手法としては,二次イオン質量分析法(SIMS)や,誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用います.同位体分析の代表的な応用例は,年代測定です.半減期が数十万年~数百万年の短寿命放射性核種(消滅核種)による年代測定も可能です.同位体には,また,隕石(の構成粒子)の材料物質の「素性」を調べる上で貴重な情報が含まれており,たとえば太陽系内での形成場所の違いが議論できます.その他,微量元素分析により,原始太陽系星雲内での元素分別プロセス(さまざま温度でのガスと固体微粒子の分離プロセス)の解明が期待できます.私たちは,SIMSやICP-MSにより得られた同位体情報・微量元素情報を組み合わせることにより,初期太陽系における物質進化を解明したいと考えています.
宇宙鉱物学:惑星物質進化過程の解明
各種の隕石やサンプルリターン探査機によって地球に持ち帰られた固体宇宙物質は,太陽系の様々な天体で起こった物質進化過程を記録しています.私達はこれらの試料を地球試料とも比較して考えることで,太陽系での惑星物質進化についての一般的な法則性を見出そうと試みています.そのため,惑星物質進化過程で重要な段階を記録している試料(例えばNASAの「スターダスト」探査機によって得られた彗星塵,JAXAの「はやぶさ」探査機によって得られた小惑星イトカワ塵,原始惑星起源のエコンドライト隕石,火星起源隕石など)に特に注目して,惑星探査とも連携した研究を行っています.主要なアプローチは,これらの固体物質の多くが結晶であることに注目して,X線や電子線分析装置などを用いて微小領域での化学組成や結晶構造を調べ,過去に天体でどのような物理・化学現象が起きたかを推測し,微惑星から原始惑星,そして地球のような惑星への天体進化を議論することです.このような研究を私達は「宇宙鉱物学」と呼んでいます.
太陽系最古の火成岩であるアングライト隕石の偏光顕微鏡写真.形成年代は45.64億年前で,原始惑星の地殻を起源としていると考えられている.
火星隕石中カンラン石の高分解能透過型電子顕微鏡写真.このような微粒子は火星表面で受けた強い衝撃変成により形成されると考えられている.