No.25 鈴木石 Suzukiite
BaV4+Si2O7
群馬県桐生市
今週の鉱物第25弾は、群馬県桐生市の鈴木石です。チャート中の層状マンガン鉱床より、日本で初めて発見された鉱物です。
いわゆるバナジングリーンと呼ばれる、緑色が美しい鉱物です。
鉱物採集家の間でも知名度の高い鉱物となっており、これを採集するために何度も通う人もいるようです。
バナジウム鉱物の特徴的な緑色の発色は、いったいどういう原理なのか気になるところです。
バナジウムを主要元素に含む鉱物は決して多くなく、日本では、デクロワゾー石やボルボルス石のような二次鉱物を除くと、多くは
マンガン鉱床から記載されています。こんなことからも、バナジウムは堆積岩に濃集しやすい元素で、熱がちょっと加わる等の
イベントがあると、稀に肉眼サイズのフェーズを作ることがあるんだろうなあ、と想像したりします。
他の金属元素と比べて濃集機構に乏しい元素だから、そして派手派手しい色のフェーズを成すことが多いからこそ、
鉱物愛好家にとってバナジウム鉱物は魅力的に感じるんだと、思いました。
2020.5.7掲載
No.24 鉄マンガン重石 Wolframite
(Fe, Mn)WO4
茨城県東茨城郡城里町
今週の鉱物第24弾は、茨城県東茨城郡の鉄マンガン重石です。タングステンの鉱石となる鉱物で有名です。
写真の鉄マンガン重石は、気成鉱床に産出したものです。この産地では他に、トパーズや蛍石、錫石など、
典型的な気成鉱床の鉱物を多く産出し、楽しい産地です。
鉄マンガン重石は、現在では鉄重石とマンガン重石の端成分のみが鉱物種として登録されています。
この産地のものは、鉄重石とマンガン重石、どちらに分類されるものも産出しています。
写真のものはどちらになるのでしょうか。
鉱物の命名が、かつては組成により複雑に分類されていたものや、中間的な組成に名前が与えられていたものも
多くありました。現在では、端成分にのみ鉱物名が与えられており、近い成分の方の鉱物名がそれぞれの標本に適用される、
50%ルールと言われるものがあります。このルールは非常にシステマティックかつ分かり易く鉱物名を定義できるメリットが
大きいですが、たまには現実の石に端成分が出にくく、俗称の方がしっくりくることもあったりします。
今回の鉄マンガン重石もその例でしょう。
2020.4.26掲載
No.23 灰長石 Anorthite
CaAl2Si2O8
北海道千歳市
今週の鉱物第23弾は、北海道千歳市の灰長石です。火成岩に普遍的に含まれる造岩鉱物です。
このような灰長石ですが、北海道では大きな結晶が産出する産地がいくつか知られています。
その一つに樽前山があり、写真の標本も、樽前山の溶岩流に含まれていたものと考えられます。
この産地では、多くの灰長石がカルルスバド式双晶を成していますが、写真のものは単結晶となっています。
全面が結晶面から構成されている良晶で、更に結晶の上下で出ている面が異なっているものです。
最も面積の広いb面には、カンラン石やスピネル、灰長石の小さな結晶が、b面をきっかけに成長している
ところがチャームポイントです。薄片で観察する灰長石では、このような様子が見て取れることは
少ないので、こういう点は分離結晶の良さを感じます。
造岩鉱物の大きな結晶はよいものですね。
2020.4.13掲載
No.22 鉄礬柘榴石 Almandine
Fe3Al2(SiO4)3
愛知県北設楽郡豊根村
今週の鉱物第22弾は、愛知県北設楽郡豊根村の鉄礬柘榴石です。12面体の最大4cm程の大きな結晶が出ることで知られている産地です。
いかにも領家帯という感じの片麻岩のペグマタイト化した部分に、これでもかと柘榴石が散りばめられている露頭の様子は、
今まで見てきた露頭の中でも印象深いものでした。条線が発達したものも見られ、階段状のエッジが見ごたえがある標本も
産出しますが、この標本はそこまでではありません。
さて、この産地の最大の難易度は、大きな柘榴石を割らずに母岩から取り出し、母岩をトリミングして標本箱に収める行程です。
露頭からある程度の大きさの石を採りだす際に柘榴石が割れないかどうかというのは、運要素が大きいですが、
そこから母岩を削って柘榴石を浮き上がらせる工程や、余分な母岩をトリミングするのは、技の見せ所でしょう。
柘榴石自体も割れやすいのですが、母岩の分離も悪くはないので、小さなチスタガネでクリーニングしていき、
うまく行くと立派な標本に仕上がります。鉱物自体をチスタガネで掘り出す行程は鉱物標本を作る上であまりなく、
まるで化石のクリーニングをしているかのような体験でした。写真の標本も、そのようにクリーニングに成功した
ものの一つです。
2020.4.9掲載
No.21 藍閃石 Glaucophane
Na2(Mg3Al2)Si8O22(OH)2
埼玉県大里郡寄居町
今週の鉱物第21弾は、埼玉県寄居町の藍閃石です。藍閃石は、低温高圧の変成作用により生じることが多い鉱物で、主に青色片岩中に産出します。
一方、写真の寄居町の藍閃石は、ヒスイ輝石+石英の組み合わせから成る母岩中に、脈状に産出しています。ヒスイ輝石もまた、低温高圧の変成作用により
生じる鉱物なので、藍閃石とは仲のいい鉱物です。藍閃石は一般に大きな結晶にならず、更に密集して産出することが多いため、なかなか肉眼で一つの
結晶を見ることができませんが、本産地では、白い石英の中に、1 mm程の青色の結晶で産出するため、かろうじて肉眼で観察することもできます。
藍閃石は、薄片下では、青色〜紫色の、特徴的な多色性を示します。変成岩中の鉱物は、緑色っぽくて粒子の小さいものが多くて、顕微鏡実習では
苦しめられましたが、そんな変成岩の中に藍閃石が出ると、他の鉱物とは違って綺麗な青や紫の分かり易い多色性を示してくれることから、
中の人には意外と好きな鉱物の一つでした。因みに、写真の藍閃石を実体顕微鏡で観察した範囲では、多色性は明瞭ではありませんでした。
2020.1.19掲載
No.20 大隅石 Osumilite
(K,Na,Ca)(Fe,Mg)2(Al, Fe3+)3Si10Al2O30・H2O
鹿児島県霧島市
今週の鉱物第20弾は、鹿児島県霧島市の大隅石です。その名の通り、日本の大隅半島で初めて見つかった鉱物です。日本で見つかった鉱物は数あれど、
大隅石はなんと造岩鉱物です。高温低圧条件で形成される鉱物で、日本では珪長質の火山岩中に産出します。そんな大隅石ですが、なんと南極の変成岩帯でも見つかっています。
こちらも、高温低圧が特徴的な岩体からの産出です。大隅石の好きな環境が分かりますね。
今回の大隅石は、写真を二枚載せてみました。1枚目と2枚目は、90度ずれた方向から撮影しています。なんとなく、色の違いが見えるでしょうか?これは、一部の鉱物が有する、
見る角度によって色合いが変わってくる、多色性という特徴です。宝石で有名なタンザナイトなどで良く知られています。見る向きによって色が変わるので、いつまで見ていても飽きません。
多色性を示す鉱物は少なくありませんが、そのほとんどが顕微鏡で観察すれば見えるレベルです。肉眼で多色性を確認できるものは、必然的に、大きな結晶であること、透明度が高いこと、
が求められるため、これを自採するのは難しいです。だからこそ、採集できると嬉しくなりますね。
2020.12.21掲載
No.19 車骨鉱 Bournonite
CuPbSbS3
埼玉県秩父市
今週の鉱物第19弾は、埼玉県秩父市の車骨鉱です。その名の通り、車骨のようなかっこいい結晶が特徴的です。
車骨鉱は比較的産出の珍しい鉱物です。しかし、秩父鉱山大黒鉱床では多産しました。秩父の車骨鉱といえば、鉱物コレクターでも知名度が高い、いわゆる銘柄品です。
一部の人たちには、銘柄品をどれだけ持っているかが、鉱物コレクターとしての強さの指標となっている、という節があります。中の人は、銘柄品という枠は、昔の誰かが決めたもので、
そんなものに囚われていてはどうするんだ、とも思っているので、銘柄か否かは関係なく、自分が良いと思った幅広い鉱物を採集するようにしています。
とはいえど、銘柄品はここ100年間の鉱物趣味の人が日本中を歩き回って見つけた標本のえりすぐりとも言えるので、やはりとても立派だし、自分が適当に山を歩き回ったくらいでは
到底得られないつわものぞろいでもあります。知名度の高い立派な標本を得るために、何度も産地に通うスタイル、一獲千金を狙うためにいろいろな産地を開拓するスタイル、
巡検スタイルはみんな違ってみんないいですね。
2020.12.11掲載
No.18 珪線石 Sillimanite
Al2SiO5
北海道幌泉郡えりも町
今週の鉱物第18弾は、北海道えりも町の珪線石です。写真中央部分の線状の結晶が珪線石の破断面です。珪線石、藍晶石、紅柱石は、Al2SiO5の
多形として有名で、温度・圧力条件によりどの鉱物になるかが知られています。逆に、その鉱物があれば、生成環境が分かります。なので、地質学的な手掛かりとして重宝されています。
珪線石は、特に500℃以上の高温で安定な鉱物なので、この鉱物を見かけたら、高温を経験したことが分かります。
本邦の珪線石といえば、微細なものは広く産出するものの、標本サイズのものは、香川の猫山や、三重の熊野のものが有名です。猫山のものはホルンフェルス、
熊野のものは花崗岩中に生じています。そして、このえりも町の珪線石は、片麻岩中に産出するものです。なかなか肉眼サイズまで成長しない鉱物が、
ホルンフェルス、花崗岩、片麻岩と、様々な環境で、鉱物標本となるサイズまで成長しているのは、なんとも面白いし、コレクターとしては全ての産状のものをつい集めたくなってしまいますね。
2020.12.3掲載
No.17 方解石 Calcite
CaCO3
北海道苫前郡羽幌町
今週の鉱物第17弾は、北海道苫前郡羽幌町産の方解石です。写真を見ての通り、オレンジ色を帯びています。オレンジカルサイトと言えば、メキシコ産のものが有名でしょうか。
しかし、この標本はなんと北海道産です。北海道で山を歩いているとき、幅30cm、長さ数メートルのオレンジ色の貫入を発見し、驚いて駆け寄ってみるととても綺麗なオレンジカルサイト
だったのを、今でも鮮明に覚えています。写真はその方解石脈の内、わずかに空隙があった部分で、オレンジカルサイトが自形結晶を成しています。
国内でも、産出報告がないこともないですが、珍しいものであることには間違いないでしょう。方解石自体はありふれた鉱物でも、何か珍しい要素があると、嬉しくなるものです。
因みに、このオレンジの発色の原因は鉄なのかなとも思いますが、謎です。鉄は二価だと緑色、三価だとオレンジ色なので、三価の鉄が入っているのでしょうか。方解石のカルシウムは二価なので、
ここに入っているのは考えにくいですが・・・。
オレンジカルサイト、なんとなく堆積岩中に出るときによく生じる気がします。例えば、貝化石中の空隙に生える方解石は、しばしばオレンジ色になる気がします。
一体何がオレンジ色に効いてきているのかはよく分からないですが、鉱物の色を考えるのも楽しいかもしれません。
2020.11.27掲載
No.16 デュモルチ石 Dumortierite
Al7(BO3)(SiO4)3O3
栃木県那須塩原市
今週の鉱物第16弾は、那須塩原市産のデュモルチ石です。写真では、白い蝋石の母岩の空隙部分に、青色の繊維状結晶を成しています。この産地では、苦土フォイト電気石もデュモルチ石
に伴い産出します。苦土フォイト電気石については、今週の鉱物N0.11で、山梨県山梨市産のものを紹介しました。山梨市産のものも、デュモルチ石に伴って苦土フォイト電気石が産出しているので、
鉱物組み合わせが似ています。組成も比べてみると、デュモルチ石はAl7(BO3)(SiO4)3O3で、苦土フォイト電気石
は、(Mg2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)4なので、どちらもAlやBを多く含んでいます。
どちらも、きっとAlやBに富む環境で生じる鉱物なのでしょう。産地は違えど、似たような鉱物組み合わせが出現することは、フィールドで鉱物観察を行っていると稀によく出くわします。
鉱物組み合わせどころか、周りの母岩の雰囲気さえ似ていたりすることがあります。逆に言うと、一つのフィールドを制すると、次に他のフィールドに行ったときに比較検討ができるようになっていきます。
新しいフィールドに来た時、「この産地の石は、〇〇と雰囲気が似ている!きっと××石があるに違いない!」や「ここの石は今まで見たことがないような雰囲気だ、変な石が出るかもしれない!」
というように、鉱物を探すうえでも手掛かりを見つけられるようになっていきます。だから、色んな産地に行ったり、色んな標本に触れることはとても大事なのです(オタク的結論)。
2020.11.20掲載
No.15 トロイリ鉱 Troilite
FeS
フランス アルデンヌ
今週の鉱物第15弾は、Mont Dieuという鉄隕石中のトロイリ鉱です。写真では、ウィドマンシュテッテン構造を示す自然鉄中の黄褐色粒状の鉱物がトロイリ鉱です。
地球では鉄の硫化物と言えば、FeS2の組成を持つ黄鉄鉱や、Fe1-xSの組成を持つ磁硫鉄鉱が広く産出する一方、隕石中の鉄の硫化物と言えば、トロイリ鉱が普遍的に
産出します。単純な鉄と硫黄だけから成る鉱物でさえ、地球と隕石では出るのもが異なってしまうは、地球の特異性を感じられて面白いものです。ちなみに、このMont Dieuという鉄隕石は、
Iron UEというグループに分類されています。鉄隕石なんて鉄の塊なんだし何を分類するのか?と思う人もいるかもしれませんが、鉄隕石は鉄以外にもニッケルや、少量のガリウム、ゲルマニウムなどが
含まれており、この量の違いでグループ分けがなされています。鉄隕石は、昔存在した分化天体のコアから来たんだろうと思うかもしれませんが、実際に多くの鉄隕石はそう考えられているものの、
このIron UEの鉄隕石は、コアではなく、母天体の一部が部分的に溶融して鉄のプールができて、そんなところからやって来たと考えられています。地球では到底見当のつかない地質設定に興奮してしまいますね。
2020.11.12掲載
No.14 褐簾石 Allanite
(Ca,Ce)2(Al,Fe3+)3(SiO4)3(OH)
山梨県甲州市
今週の鉱物第14弾は、山梨県甲州市の褐簾石です。褐簾石は、特に珪長質のペグマタイトに大きな結晶を産出することが知られている鉱物で、稀元素に富んでいます。
鉱物を元素の視点から楽しんでいる人たちには、たまらない鉱物です。中の人も、ペグマタイトに通った過去があるので、好みの鉱物です。
そんな褐簾石ですが、多くの場合、なんとなく柱状の結晶は成すものの、綺麗な結晶形を示すものは稀です。しかし、この甲州市の褐簾石は、柱状結晶を明瞭に示すものが多く、
まるで鉄電気石に見間違えるほどです。化学組成も楽しいし、結晶形も綺麗なのは、なんとも楽しい標本です。
2020.11.6掲載
No.13 氷長石 Adularia
KAlSi3O8
長野県南佐久郡川上村
今週の鉱物第13弾は、川上村、甲武信鉱山産の氷長石です。氷長石は、正長石の多形に当たる鉱物です。
写真の氷長石は、三連双晶を成しています。長石類は、様々な岩石に普遍的に産出する、いわゆる造岩鉱物ですが、
写真のように肉眼サイズで、結晶形がしっかり現れたような標本になると、そのギャップに魅了されてしまいます。
甲武信鉱山は、鉱物採集をしたことのあるものなら知らない人はいないほどの、鉱物採集のメッカのような場所で、
スカルン鉱物に関して高いクオリティで広い鉱物種を産する鉱山です。もしこの今週の鉱物のページを見て、鉱物採集に
興味を持ったならば、非常にオススメできる産地の一つです。それなりに山に登るので体力は必要ですが・・・。
2020.10.29掲載
No.12 石膏 Gypsum
CaSO4・2H2O
山形県山形市
今週の鉱物第12弾は、蔵王温泉の石膏です。蔵王温泉付近の酢川では、粘土化した変質帯から、石膏が見出されています。
この産地の石膏は、柱状結晶を成し、いわゆる燕尾状の双晶を成すものも多く見つかります。写真のものは、変質帯の
少し空隙があった場所に結晶した石膏です。石膏自体は様々な場所で産出する鉱物ですが、この産地を含め、変質した粘土の中に
出るものは、結晶面を持ち美しいものが多いように思います。石膏以外の硫化鉱物でも、粘土から出るものは自形を成しているものが
多いと思います。鉱物標本となるレベルの鉱物が採れることも多いので、変質した粘土は中の人が好きな好きな産状の一つです。
採集の際にはドロドロに汚れたり、標本にするまでの処理がめんどくさかったりしますが・・・。
鉱物産地として知られていない場所でも、こういった粘土化した変質帯の露頭を見かけることもあり、そういう時は中の人は
必ず露頭を観察するようにしています。小さいけど綺麗な黄鉄鉱くらいなら、割かし伴っていることが多いです。
いつか、この産状で、未発見の産地を見つけられるのではないかなと期待しながら露頭を見るのですが、未だに立派な標本には巡り合えていません・・・。
2020.10.23掲載
No.11 苦土フォイト電気石 Magnesiofoitite
(Mg2Al)Al6(Si6O18)(BO3)3(OH)4
山梨県山梨市
今週の鉱物第11弾は、山梨県において世界で初めて発見された、苦土フォイト電気石です。1990年代になってから見つかった、比較的最近見つかった鉱物です。
しばしば毛状結晶を成す鉱物ですが、実体顕微鏡で拡大して観察すると、三角柱状の結晶をしていて、電気石グループであることがよくわかります。
写真のものは、原産地標本です。この写真には写っていませんが、デュモルチ石やろう石から成る母岩の空隙に、微細な水晶とともに苦土フォイト電気石が自形結晶を成す産状です。
この鉱物、日本の研究者が新鉱物として記載論文を書いている途中で、標本が流出してしまい、海外の研究者が入手して先に記載論文を提出しようとしたということがあったようです。
結局、共著論文にするという形で決着したようです。他の研究者が行っている研究の抜け駆けのような発表を行うことへの是非はともかくとして、この一件で、やはり研究はスピードも大事だなと
感じさせられます。中の人も論文の進捗を急がなければ・・・。
2020.10.16掲載
No.10 三崎石 Misakiite
Cu3Mn(OH)6Cl2
愛媛県西宇和郡伊方町
今週の鉱物第10弾は、愛媛県伊方町で発見された、三崎石です。写真では判然としませんが、リム部分に三崎石の特徴である針状結晶が見られたことから、本鉱と断定しています。
本産地では、伊予石と三崎石という二種類の新鉱物が見出されています。いずれも、アタカマ石の銅の一部をマンガンに置換した鉱物に相当します。アタカマ石は、塩素を含む銅の二次鉱物で、
銅鉱床が海水にさらされる場所で、よく観察される鉱物です。本産地では、マンガン鉱石中の自然銅が、海水にさらされて、伊予石や三崎石が生じています。いかにもアタカマ石グループっぽい産状です。
今週の鉱物のページを見返してみると、何やら二次鉱物が多い気がしてきましたが、たまたまです。中の人は、珪酸塩鉱物など大体の鉱物は好きなので、色んな種類の鉱物を掲載していきたいと思っています。お楽しみに。
2020.10.9掲載
No.9 久城輝石 Kushiroite
CaAl2SiO6
モーリタニア
今週の鉱物第9弾は、サハラ砂漠で発見された、NWA 12774という、アングライトと呼ばれる種類の隕石中の久城輝石です。写真で茶色の部分が久城輝石です。実際のところは、久城輝石成分に卓越する部分と、灰鉄輝石に卓越する部分があります。
久城輝石は、通称Caチェルマック輝石とも呼ばれ、輝石の端成分の一つとして仮想的に考えられていましたが、南極で発見された「炭素質コンドライト」という種類の隕石から見出され、2010年に久城輝石と命名されました。
炭素質コンドライトには、太陽系円盤の高温のガスから昇華してできた、いわゆるCAIという難揮発性物質が含まれており、そこから、火成活動では考えられないような様々な新鉱物が見出されています。
久城輝石も、そのように発見された新鉱物の一つです。ところがどっこい、中の人の研究で、久城輝石(とは言っても久城輝石成分がギリギリ一番多いくらいですが)を、アングライトという
火成岩の隕石から見つけてしまいました。しかも、炭素質コンドライト中の久城輝石は10 μm程で小さいですが、アングライト中のは最大 500μm程で肉眼サイズです。アングライトは、そのバルク組成が、難揮発性成分に富んでいます。だからこそ、火成活動が起こってそこから結晶化した鉱物も、ある意味当然難揮発性のものになるのだなあ、
と面白く思いました。人類は隕石をどんどん発見していっており、既に何万個も見つけていますが、それでも隕石を発見していくと今まで知られていなかった種類の火成岩隕石が見つかり続けている現状があります。
もしかしたら、今後の隕石探索が進んでいくと、変なバルク組成の隕石だって見つかって、その中から未知の鉱物がたくさん見つかったりするんじゃないかなあ、と中の人は楽しみにしています。
2020.10.2掲載
No.8 オリーブ銅鉱 Olivenite
Cu2(AsO4)(OH)
広島県尾道市
先週更新し損ねて週刊記録は途絶えてしまいましたが、気を取り直して、今週の鉱物第8弾は、広島県尾道市のオリーブ銅鉱です。第6弾と同じく、二次鉱物に分類される鉱物です。
ここでは、様々な種類の砒酸塩鉱物や硫酸塩鉱物が産出して、楽しい産地です。しかし二次鉱物は、色の違いで必ずしも鑑定できないことも多く、形も被膜状を取ることが多いため、
意外と上級者向けなジャンルでもあります。写真のオリーブ銅鉱は繊維状結晶を成していますが、他にも柱状の結晶として産出したるすることもあり、二次鉱物の
鑑定の難しさを物語っています。
2020.9.28掲載
No.7 異極鉱 Hemimorohite
Zn4Si2O7(OH)2・2H2O
大分県佐伯市
今週の鉱物第7弾は、大分県佐伯市木浦鉱山の異極鉱です。酸化帯に産出する鉱物で、日本では神岡鉱山や、この木浦鉱山のものが有名です。
異極鉱は、その名前が示すように、上下方向の両端の結晶の形が違います。結晶形態は対称性が高いことが多いのですが、不思議ですね。
写真の標本は、球状の集合結晶となっています。球状集合の表面は、多数の異極鉱単結晶の「頭」が出ていますが、「根」の方は集合しているため、良く見えません。
いつか、「頭」と「根」の部分の方との違いがよくわかる、良く結晶した異極鉱単結晶を採集してみたいものです。
2020.9.17掲載
No.6 カレドニア石 Caledonite
Pb5Cu2(CO3)(SO4)3(OH)6
岡山県小田郡矢掛町
今週の鉱物第6弾は、岡山県矢掛町新美川鉱山のカレドニア石です。写真では、水色の部分がカレドニア石で、青色の部分が青鉛鉱です。
カレドニア石は、銅と鉛の二次鉱物ですが、その産出はかなり稀です。銅と鉛の二次鉱物と言えば、PbCu(SO4)(OH)2の組成を持つ青鉛鉱が、
銅や鉛の鉱山に行くとよく見つかります。青鉛鉱とカレドニア石、殆ど組成が同じなのに、
いったいどのような環境の違いが、産出鉱物の違いを生み出したのでしょうか。鉱物の産出理由を考えるのも、鉱物採集の楽しいところだと、中の人は
考えています。
因みに、カレドニア石は、他の産地ではほとんど見かけないのに、新美川鉱山では多産します。不思議ですね。
2020.9.11掲載
No.5 布賀石 Fukalite
Ca4Si2O6(OH)2
岡山県井原市
今週の鉱物第5弾は、岡山県井原市に産する布賀石です。写真では真っ白な部分が布賀石に当たります。
岡山県は、日本の都道府県で、最も多く新鉱物(世界で初めて発見・記載された鉱物)が記載されている県です。
つまりは、世界的に見ても珍しい温度・圧力・化学組成の条件が揃ったからこそ、未知の鉱物が生成したと考えられるでしょう。
実際に、岡山県の新鉱物は、その多くが、普通のスカルンよりも高い温度で生成した、「高温スカルン」という世界的に見ても珍しい地質から産しています。
高温スカルンに行ってみると、白い鉱物ばっかりでどれがどの鉱物なのかわかりませんが、何度も通うと違いが分かるようになってきます。
鉱物観察・採集を通じてだんだん鉱物が分かるようになってくるもの、鉱物観察・採集の楽しみの一つでしょう。
中の人は、こういった珍しい鉱物標本も大好きなので、お気に入りの標本の一つです。
2020.9.4掲載
No.4 ゼノタイム Xenotime
YPO4
福島県石川郡石川町
今週の鉱物第4弾は、福島県石川町のペグマタイトに産するゼノタイムです。石川町は、日本三大ペグマタイトの一つに数えられており、分化の末期にゆっくり冷えてできた、
水晶、長石、緑柱石、鉄電気石、鉄礬柘榴石などの大きな鉱物が有名です。この時に、イオン半径が大きな稀元素も濃集し、様々な稀元素鉱物も生み出されました。
このような希元素鉱物の産出量は、石川町が日本一と言っても過言ではないでしょう。写真の鉱物はゼノタイムと言い、イットリウムのリン酸塩という化学組成の鉱物ですが、
そのような組成にも関わらず、肉眼サイズの標本になっています。流石は石川町といったところでしょうか。
この標本は、学会の中日に研究室の人たちと巡検に行き採集した、思い出の標本でもあります。
石川町もまた、中の人が青春18きっぷで何度も通って鉱物採集に励んだ、思い出の町です。
2020.8.28掲載
No.3 頑火輝石 Enstatite
(Mg, Fe2+)SiO3
アメリカ合衆国コロラド州
鉱物は宇宙にだってある!今週の鉱物第3弾は、アメリカ合衆国コロラド州に落下した隕石Johnstownに含まれる頑火輝石(紫蘇輝石)です。
地球に最もよく落下する「コンドライト」という種類の隕石では、宇宙の塵が集まってできているため、このように肉眼で見えるほど大きな鉱物は稀ですが、
このJohnstownという隕石は、地球のような地殻や核を持っている、小惑星Vestaから由来している「エコンドライト」で、
小惑星Vestaの地下深部でゆっくり結晶化したからこそ、肉眼サイズまで結晶が成長できたと考えられています。
宇宙にも大きな鉱物があると思うと、鉱物収集も地球に留まっていてはいけないなと痛感させられますね。
地球外にどんな種類の、結晶が大きくて美しい、所謂「鉱物標本」があるのか、中の人はとても気になって夜しか眠れません。
いつの日か、宇宙産の「鉱物標本」が、標本棚に並ぶ日を楽しみに待っていますがいつになることやら。
(もちろんパラサイト隕石は、鉱物も大きく美しい、「鉱物標本」だと思いますが、他にどんなものがあるか気になります)
2020.8.21掲載
No.2 錫石 Cassiterite
SnO2
岡山県倉敷市
今週の鉱物のページ第2弾は、倉敷の錫石。錫石と言えば本邦では、京都府の行者山のものや、砂錫として岐阜県の中津川のものが有名だろうか。
倉敷では、三吉鉱山において少量産出する。三吉鉱山産の錫石は、比較的シンプルな四角柱及び四角錐状結晶を成すことが知られていて(芦田 1960)、本標本もそのような結晶を成している。
中の人が幼少の頃、何度も通って発見した、思い出の石である。
2020.8.12掲載
No.1 重晶石 Barite
BaSO4
北海道檜山郡上ノ国町
今週の鉱物のページを開設しました。ちゃんと毎週更新できるのかしら・・・。
バリウムの鉱物で、比重が大きく(4.5程度)、ずっしりと重い。本産地では、自形結晶を成し、大量に産出する。
透明度も高く、美しい標本である。
2020.8.6掲載