比較惑星学

比較惑星学

天体衝突

天体衝突は過去から現在において、我々の太陽系において普遍的に起きています。その規模は星の歴史を大きく変えるようなものから、ミクロンサイズのものまで大小様々です。 我々の地球を例に挙げてみても、天体衝突は月の形成 (ジャイアント・インパクト説)、生命の起源、恐竜の絶滅などに影響を与えたと考えられています。 高速度で起きる天体衝突が及ぼす影響は、クレーターの形成、 衝突下の高温・高圧状態が引き起こす物質変化、 気体の発生など多岐に及びます。このような衝突現象を理解することは、太陽系の惑星や衛星、小惑星の進化を考える上で非常に重要です。 我々の研究室は室内実験、探査、望遠鏡観測などの様々な切り口からこのテーマに挑み、謎を解明しようとしています。

天体衝突の室内再現実験の連続写真。真空中で弾丸を高速で標的に衝突させると、逆円錐形のイジェクタカーテンが形成され、その内側で隕石孔が掘削される。図では、イジェクタカーテンが成長していく様子が見えている。

タイタン

タイタンは、1655年、3月に天文学・物理学者ホイヘンスによって発見された土星系最大の衛星である。その大きさは惑星である水星よりも大きく、直径にして5150 km もある。また、タイタンは地球と同じく窒素を主体とする分厚い大気をもち、地表面での大気圧は地球の1.5倍(1.5 bar) にもなる。
タイタンを理解する上で、タイタンの大気を理解することは重要となり、その中でも窒素大気の起源を理解することは最も意義のある研究の一つと考えられている。 我々の研究室では、このタイタンにおける窒素大気の起源は、コメット(彗星)の超高速衝突によるタイタンの氷地殻からの脱ガスによるものと考えている。タイタンの地殻を構成する物質は未だ分かっていないが、NH3-ice が有力とされており、超高速天体衝突によってNH3-iceからN2が生成する反応が起こるか否かを調べるために、我々はレーザー銃を使った超高速天体衝突を模擬する実験を行っている。

火星


太陽系に数ある惑星の中でも、地球のとの最も直接的比較が可能な惑星が火星です。現在の火星は極寒で乾燥しきった惑星であるが、今から30億年以上昔には河川や湖ないし海を持った温暖湿潤な表層環境を持っていた可能性があります。本当にそのような温暖湿潤な気候があったのか、もしあったとしたら何故それは長続きしなかったのかなど、火星についての疑問は尽きません。また、人類が現在直面している惑星規模の環境問題についても火星環境の研究から重要な知見が得られる可能性も非常に高いです。これらの期待に応えるため、世界各国は火星に多くの探査機を送り込んできました。我々は、これらの探査機データおよび自分たちの実験室での研究データを基にして様々な研究テーマに取り組んでいます。

マーズ・グローバルサーベイヤーが遠距離から捉えた火星の姿(NASA提供)。
上に北極冠が、中央左側に雪を戴いたタルシス山系が見えます。全体がぼんやりして見えるのは、火星の大気による散乱が原因です。

月の起源と進化は、地球の起源と進化を理解する上でどうしても避けて通れない問題です。また、惑星探査をするためには、最も地球に近い星である月にまず行く必要があります。月に行く技術なしに火星や金星に行くことは大変困難です。月は惑星科学、惑星探査において、理学的にも工学的にも通り過ごすことができない天体なのです。

(Apollo 17号による月面探査の様子。写真:NASA提供)

隕石重爆撃

月の表面において最も顕著なのは、数多あるクレーターです。クレーターが天体衝突でできたことは、今では常識になっています。しかし、アポロ計画によって月面の詳細な探査が行われるほんの30年ほど前までは、火山起源説と衝突起源説が拮抗していて結論が出ていませんでした。回収された月の試料に衝突メルトや砕屑礫岩など天体衝突が激しく起こっていた証拠が明らかにされて始めて衝突起源説が決定的になったのです。
また、放射性同位体測定比を用いた正確な年代測定が行われ、衝突メルトの形成年代が38億から40億年前に集中していることも分かってきました。つまり、この時代に激しい巨大隕石の衝突(隕石重撃)があったことがわかるわけです。ところが、この38億年から40億年という数字は、実は非常に奇妙な数字です。というのは、月が形成されたのは約45億年前なので、それから5~7億年もの時間がたっているのです。惑星集積の理論計算からは、こんなに長い期間にわたって惑星の集積し残りの微惑星が内側太陽系に留まっていることは非常に難しいという結果が出ています。
また、月形成から5~7億年もの期間にわたって高い頻度での小天体(or巨大隕石)の衝突が続いたとすると、月の地殻には非常に大量の親鉄性元素(イリジウムや白金など)が隕石によって持ち込まれることになります。しかし、実際の月の地殻に見つかる親鉄性元素は、この推定よりはるかに低い濃度でしかありません。

月を覆うクレーター。月面に激しい隕石衝突があったことを物語っている。(NASA提供)

この矛盾を解決するために提案されたのが、大地変仮説(Cataclysm)です。これは、以下のようなシナリオです。激しい微惑星の衝突は、月の形成後1億年程度以内に終息し、数億年間静穏な期間が続く。その後再び何らかの原因により小天体の月への衝突頻度が激しい時期(大地変期)を38~40億年前に迎える。大地変期が終わった後は、隕石衝突頻度が現在にかなり近い低い値になる。
この仮説を支持する証拠が、ウラン鉛同位体比の測定にも見つかっているため、この仮説を支持する研究者はかなり多くいますが、大地変を引き起こしたメカニズムが不明な点、大地変がなければならないことを示す確固たる地質学的証拠見つかっていないため、未解決問題として残っています。
この38~40億年前というのは、地球上に生命が生まれり、大陸が大きく成長した時代であるとも考えられており、この時代に巨大隕石の激しい衝突があったのかどうかは、地球史を理解する上でも非常に重要な問題です。この問題を解決するためには、集積理論のより深い理解と共に、月面のより広範囲の年代測定が必要です。

月の二分性

月のクレーターの火山起源説が支持された大きな理由の一つは、巨大クレーターにほぼ必ず熔岩流が付随していることでした。この熔岩の溜まった地形は海と呼ばれ、それ以外の場所(高地)と区別されます。しかし、熔岩の海は表側に特に顕著な地形で、地球から見えない裏側や極側にはあまり多く分布していません。裏側や極側には、したがってクレーターばかりがある非常に凹凸の激しい地形が広がっており、表とは全く違った惑星を見ているようです。このような表と裏の大きな違いを、よく月の二分性という言葉で表します。火星にも北半球と南半球に大きな違いがあり、このような二分性は、中型の惑星に比較的普遍的な現象なのかもしれません。

ガリレオ探査機の撮影した2枚の月の写真。右は地球から見る月に近い画像である。この画像では黒い海が卓越しているのが分かる。また、左端の中央やや下に巨大クレーター「東の海」が見える。左図では、この東の海が中央にくる構図になっており、画像の半分以上が裏側を写してしている。ほとんどが白い斜長岩からなる高地で構成され、黒い玄武岩の海が非常に少ないことが分かる。写真NASA提供

このような表と裏の違いは、地形高度や重力にも現れています。表側の高度はその他の地域に比べて低く、またフリーエア重力異常も大きな正の値を示します。さらに重要なのは、地形高度と重力異常から推算される地殻の厚さが、表と裏では激しく違うことです。表では60~70キロ程度の厚さがあるのに対し、裏では100キロ程度の厚さと推定されています。この地殻の厚さの違いのため、月では形状中心と質量中心が約2キロもずれています。
このような月の二分性は、月の内部構造の起源と進化の過程に深く結びついているはずです。月の二分性の原因の究明は、今後の月科学の中心的テーマの一つです。2007年9月に種子島から打ち上げられた月探査衛星「かぐや」は、まさにこの問題解決を目指して月に向かいました。「かぐや」の子衛星の一つ、「おきな」は別名「リレー衛星」と呼ばれるもので、月の裏側の重力場を計測するためのものです(重力探査の項参照)。これにより、世界で初めて、月の裏側の重力場が計測されました。その結果、月の二分性は「見た目」、つまり表面の薄い部分だけでなく、地殻とマントルの境界、そしてそれより深くまで浸透していることが明らかになりました。「おきな」は2009年2月にその役目を終えて月面に衝突しましたが 二分性の議論はまさにこれから、といったところです。

マグマオーシャン

月の内部構造で触れた斜長岩質の厚い地殻があるという記述は、実は月の起源と進化について重要な情報を含んでいます。それは、月が大規模熔融事件を経験したことを意味するからです。月の地殻は、その9割までが斜長石という鉱物でできていますが、これほど単一の鉱物が大きな割合を占めて惑星地殻を構成するためには、大規模な熔融過程が必要です。また、マントル起源である玄武岩との間には、Euという希土類元素の負の相関が見つかっています。詳細は省きますが、この化学的証拠はマントルと地殻が一つの熔融体から生まれ、その際にEuのやり取りが起きたということを示しているのです。これら一連の証拠から、月にはかつてマグマの大洋(マグマオーシャン)があったことが明らかになってきました。しかし、惑星の集積理論とその初期熱史の理論計算を行うと、月のような小さい惑星では、よっぽど急速に集積が起こらない限り微惑星の集積により解放される重力エネルギーは熱放射として宇宙空間に効率よく逃げて行ってしまい、表面が全球的に熔融することは非常に難しいことが分かってきました。この問題を回避するために、月のマグマオーシャンは全球的な熔融ではなく、部分的一時的な熔解の積み重ねによって説明できるという仮説も提案されています。しかし、この仮説にも様々な問題が指摘されていて、全体としては全球熔融説の方が有力視されています。いずれにしても、マグマオーシャン仮説を巡る理論と観測事実の矛盾は非常に重要で、現在の月の科学の最先端の問題となっています。

月の起源

マグマオーシャンの存在と共に、月には幾つかの重要な特徴があり、それらは月の起源を考える上で、どうしても説明しなければならない制約条件となっています。

  1. 地球・月系は、他の地球型惑星に比べると回転運動量が異常に大きい。
  2. 月と地球では、酸素同位体比が同じ分別曲線状に載っており、同一の材料物質からできたことを示している。ちなみに火星や小惑星の酸素同位体比は地球の分別曲線には載らない。
  3. 月は地球に比べ、 水やナトリウムなど揮発性物質が圧倒的に少ない。
  4. 月は地球に比べ、鉄が少ない。
  5. 月は、その小さいサイズにもかかわらず、いったん全球溶融した。

これだけの制約条件が揃うと、それまでに幾つか考えられていた月の起源説をかなり絞り込めるようになりました。月の起源説の主要なものは、

  1. 共集積説。月と地球は同じ材料物質から同時期に形成した。
  2. 捕獲説。月と地球は太陽系の別の場所で形成し、月が地球の重力によって捕獲された。
  3. 分裂説。月は高速回転している地球から分裂して形成した。
  4. 巨大衝突説。成長途中の地球に他の原始惑星が衝突して月が形成した。

金星は、地球とは似てもにつかない表層環境を持っています。その意味です。最初の3つは、アポロ計画で月についての知識が飛躍的に増える前から提案されてきたものですが、上の制約条件が揃うと、どれも正解でないことが明らかになってしまいました。そうした状況を踏まえて提案されたのが、4つ目の巨大衝突説でした。
この巨大衝突説は、地球質量の十分の一程度(火星程度)の大きさの原始惑星が、地球に斜め衝突すると、岩石蒸気からなる周地球円盤が形成され、その円盤から月が形成するというものです。最初の斜め衝突により、非常に大きな角運動量が供給されます。また、周地球円盤には地球由来の物質が多く含まれるために月の酸素同位体は地球のそれと一致することも説明が難しくありません。さらに、岩石蒸気からの集積により揮発性物質の散逸が促されることも期待されます。鉄の欠乏は、周地球円盤には、地球の金属核は参加せず地球マントルと衝突天体物質のみが参加することで定性的には説明が可能です。最後の全球熔融は、周地球円盤上での集積は周太陽軌道上での集積に比べ圧倒的に早いことで問題が解決されます。また、このような巨大が原子惑星の衝突が比較的頻繁に起こりうることも、最近の惑星集積理論の発展によって分かってきました。

超巨大衝突の想像図。月は、火星と同じくらいの原始惑星が成長最終段階にある地球に衝突して作られたのではないかと考えられている。

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