超強磁場中性子星の巨大フレア: Geotail衛星観測

Nature誌 掲載論文タイトル: Repeated injections of energy in the first 600ms of the giant flare of SGR 1806-20

(和訳: SGR 1806-20の巨大フレアの最初の600ms間に 繰り返し起こったエネルギー注入)


Nature誌の掲載内容の概略

2004年12月27日に、おそらく超強磁場中性子星(マグネター)であると考えられている軟γ線リピーターSGR 1806-20に発生した大規模フレアは、ほとんど全てのγ線専用検出器を飽和させたため、それらによってはフレアのパルス波形の特徴をきちんと決めらることができませんでした。一方、正確な波形は、この線源で何か起きていたのかを物理的に決定するために本質的に重要なものです。この論文では、地球磁気圏探査衛星Geotailの粒子検出器(LEP)の粒子カウンターによって測定された、フレアの最初の600ミリ秒間のγ線波形(50keV以上のエネルギーのγ線の積分値)を報告しています(下の図。なお、LEPはイオン用と電子用の2つの計数器から構成されており、それぞれに感度がちがいます。この図では電子用計数器の測ったγ線の量を280倍してその感度の違いを補正してあります。)。

LEPは本来、磁気圏や太陽風のプラズマを構成する荷電粒子(電子、陽子、ヘリウム原子核など)を測定するために設計されたもので、γ線に対する感度はごく弱いものなのですが、この巨大フレアの場合には感度が弱かったことが幸いして飽和の影響を免れることができました。そして、LEPはγ線観測器としては5.48ミリ秒という比較的高い時間分解能を持っているため、巨大フレアのパルス波形を精密に決めることができました。

光度曲線

LEPの観測によれば波形のピークはフレアの開始後約50ミリ秒で、107光子 cm-2s-1のオーダーに達していました。ピークの後、光子の量は徐々に減衰しましたが、その減衰波形はそれに重なる周期60ミリ秒ほどの振動によって変調を受けていたことが見いだされました。この変調は、繰り返し起きたエネルギー注入を示すものであると考えられます。推定されるフレアの全エネルギーは双極子磁場強度(1015G)に基づいて計算されるマグネター内部の蓄積磁気エネルギー(約1047erg)に匹敵することがわかりました。このことは、エネルギー解放メカニズムが極めて効率的であったか、あるいは内部の磁場は外部双極子磁場よりもずっと強いことを示唆すると考えられます。

ところで、上のパルス波形の曲線を眺めると、180ミリ秒以降はゆるやかに減衰し、400〜450ミリ秒のあたりに少し凸凹があるように見えます。γ線の量が弱まってからの変化を見やすするには縦軸を対数目盛りとしてグラフを描き直せばよいことが分かっています。下の図の上側のパネルはそうして描き直したパルス波形の図です。400ミリ秒以後の凸凹の構造がはっきりみえますが、同じ構造はSwift衛星の観測(下側のパネル)によっても観測されたことがわかりました。2つの別の観測で細かい凸凹の形状まで一致が見られ、SGR1806-20のフレア固有の時間変化であることが証明されました。このような時間変化を起こすフレアとはどんなものなのか、今後の理論的解明が待たれています。

対数光度曲線


Geotail衛星とは

Geotailとは1992年7月に打ち上げられ、現在もデータ取得に活躍中の磁気圏探査衛星の名前です(地球をあらわす接頭辞Geoに磁気圏尾部をあらわすtailをつないだ造語です)。その名の通り、地球磁気圏、特に尾部を主な研究対象としてJAXA宇宙科学研究本部の前身、宇宙科学研究所とNASAが共同で企画したものです。磁気圏の研究にとって重要なのは、その場のプラズマ密度、速度、温度に加え、高エネルギー粒子や電磁場とその揺らぎ(波動)ですから、そうした項目についてほぼ完璧な観測体制がとられてきました。

GEOTAIL衛星外観 GEOTAIL衛星スケッチ

Geotail衛星紹介のウェブは ここにあります。 特に、磁気圏プラズマ研究の紹介については ここをごらんください。

上の左の図は打ち上げ前の試験中のGeotail衛星の写真です。本体は円柱状(半径は1mほど)で、表面には一面に太陽電池が貼られています(表面に見える青い部分)。右の図はジオテイルの外観のスケッチです。LEPは円筒形の壁の内側(図の左側)に設置されています。SGR1806-20からのγ線は、太陽電池とその内側のアルミの壁を貫いてGeotail衛星内部に侵入しました。内部に侵入してから、LEPに達するまでの経路を下の図に示します。最初のパラグラフでLEPのγ線に対する感度はごく弱いものであると述べました。しかし、それでもなおイオン用計数器はγ線のピーク付近では飽和したのです。幸い、電子用計数器はイオン用計数器の280分の1の感度しかなかったので、こちらは飽和せず、ピークの形状を検出することができました。

GEOTAILWall


LEPのγ線に対する測定エネルギー範囲と感度の決定

科学観測としては単にγ線に感じただけでは不十分で、計数器の特性、すなわち測ったγ線がどのようなエネルギー範囲のもので、どれだけの総量があったかを決定しなければなりません。LEPによる巨大フレアの観測を成功させたのは、太陽フレアからのγ線観測によってLEPの感度がきちんと決められていたからです。それにはLEPと太陽観測衛星「ようこう」による太陽フレアの同時観測が重要な役割を果たしました。下の図は、2000年11月24日15時7分〜15時10分の太陽フレア時に、「ようこう」搭載の硬X〜γ線検出器であるHXTにより観測された50−90keVのγ線の時間変化(0.5秒毎)を緑の点で、LEPの見たγ線の時間変化(12秒毎)を赤の階段グラフで示しています。ご覧のように両者は時間刻みの幅の違いを除けばそっくり似ています。この図の縦軸は両者の比較がしやすいように任意目盛であらわされていますが、HXTはγ線に対する特性がきちんと決められていますから、比例計算をすればLEPの特性が決められることになります。このような同時観測例は十数個見いだされていました。

GEOTAILvsYOHKOH

「ようこう」衛星のウェブはここにあります。



Nature論文の著者(順不同)とその所属は以下の通りです:

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